経過報告
その頃、自分達の教室に一人遅れて朝倉正吾が辿り着こうとしていた。正吾は流れた映像を確認してこの場に来たわけではなかった。ただ、状況の捜索と協力者にする予定の良太がいる場所を探していただけだ。
自分を信用させる道具として、見てしまった俊介の暴言を手に機会を窺っていたにすぎない。正吾はひとまず『裏切り者』は誰でもいいとしている。『裏切り者』が誰にしろ、このゲームから抜け出すためには、情報量が必要不可欠。欲を言えば、自分の行動さえも知られないことが理想ではあったが、一人で情報を集めるには限界がある。だとしたら、一番情報が集まりやすく、まだ信用できる良太を味方につけておきたいと考えていた。
理想は良太が一人になった時、しかし、どうやら直とチームを組んでしまっているみたいだ。だとしたら一人になるタイミングはないかもしれない。それなら、隙を見てこっそり話をすればいい。良太は場の空気を読むのは天才的だから、自然とそうするだろう。
だが、廊下まで辿り着いた瞬間いきなり目立った。
予期せぬ事態。それは教室に集まっているメンバーが閉じ込められているということだった。それを知らない正吾は、数人のクラスメイト達が廊下側の窓ガラスを叩き始めたことに異様な雰囲気を感じ取り、後ずさりをしてしまう。
「扉が開かないんだっ、そっちから開けてくれっ!」
豊の声が耳に届き、ようやく状況を把握する。
「ダメだっ、開かない」
見捨てることができるわけもないので、力いっぱい扉を引いてみるが開く気配がない。
「そっちからでもダメなのかよ……」
豊の愕然とする姿を尻目に、正吾は教室にいる人数を数えた。正吾が教室を離れる前より、圧倒的に数が少ない。じゃあ、他はどうしているのか、疑問を感じた瞬間、情報がほしくなる。
「俺、他の教室も見てくるから、ちょっと待っててくれ」
この場にいたところで扉が開かないなら、閉じ込められている側からすれば少しでも可能性は上げたいだろう。そう思っての正吾の行動だったのだが、
「正吾、待った」
良太に呼び止められた。
助けるという部分の気持ちが薄いことに気付かれたのかと一瞬ドキリとする。正吾はできる限り心配している表情を作るよう自分に言い聞かせ、良太がいる教室に顔を向けた。
「あれ?」
正吾が戸惑いの声を上げる。それもそのはず、すでに正吾の姿を見ているものがいない。呼び止めた理由がなんなのか、その視線の行方を追う。
黒板だった。
最初と同様、文字が羅列されている。
それも最悪な結果を示していた。
【残り三十九名】
背中がゾクリと嫌な汗を掻く。聞けばその明確な答えを誰でも答えられただろう。しかし、聞いてしまえばその事実を認めなければいけなくなる。クラスメイトの一人が、松村と同様な形をたどっとしまったのだと。だから、誰も聞けぬまま時は過ぎる。
だが、のんびりもしていられない。本当に各々が考えてしまった事態が起きているのかどうか確認しなければいけないし、そうなってしまったのなら、一刻もこのゲームから抜け出さなければならないからだ。
いち早く思案した結果、俊介が良太に言う。
「押すしかないだろ。閉じ込められたままじゃなにもできない。それにスイッチを押す事しかなにも得られない」
それは本心から出ているものか判別できない。それでも良太はスイッチを押さなければいけないと思う。なぜなら俊介の心内がどうであれ、同じことを思っていたからだ。
スイッチに視線が集まる。
「押すよ」
TVのモニターを見ろという意味での確認。
「まて、俺が――」
直の言葉を制止する。
「順番がややこしくなるから」
何が起きるか分からない、それは今を凌いでもやってくる。その度に誰かが拒否をすれば、その分だけ面倒事が増えてしまう。
「どのみち押さないと分からないことが多すぎる」
説得ではなかった。良太だって起きている事への恐怖を感じている。だからこれは覚悟と決意。
何度か押すタイミングを阻まれたが、今度こそ良太がそのスイッチのボタンを押す。最初に起きた変動、それは扉の鍵が開く音。小さな音の一つ一つに反応を見せながら、最後には、やはりモニターに映像が映し出される。
「信也と健……?」
この中で二人に一番近い存在の豊が確認のため声を出す。
「あっちも閉じ込められてるのか、めっちゃ焦って扉叩いてるけど……」
次には映し出されている場所を荒木が答えた。
「あの床、体育館だな。なんで体育館が…………」
しかし、もっと知りえる情報がある。
「なんか二人の後ろの方、流れてきてない? 黒い……液体」
分からなかったから美紘が尋ねられた。
モニターの所為なのか、液体は黒さが目立つ。次第に距離を伸ばしている液体の角度が変わり、人によっては別の色が垣間見えた。
目に映るは濁った赤。
その液体がなんなのか徐に鏡花が答えてしまう。
「血液…………?」
その瞬間、悲鳴が上がった。
体に震えが来る。黒板に書かれた『三十九名』の文字が存在感を強めた。
そして、
「誰が…………」
当然思いつく疑問を誰かが口にした。




