分散
TVモニターに映っていたのはさっきまでいた自分たちの教室だった。しかし、違う所がある。いるはずの三人がいない事、椅子、机が配置されている事、さらにシャッターで塞がれていた窓から外が見えている事だった。
それにいち早く気付いた、良太、荒木、俊介が三階の教室に向かって走り出す。他に走り出したのは、直、美紘、エナ、豊、柴崎、梢。この数名は理由が分からなかったが、一緒にいなければいけない人間の後を追った。
残された千鶴のチーム、その中で一番早く事態に気付いたのは千鶴だ。チーム全員にそのことを告げようとした時だった。
校舎全体に地鳴りのような爆発音が鳴り響く。何が起きたのかは分からないが、その音で千鶴は全ての行動を削がれた。
今、動いてはいけない。何が起きているのか分からぬまま、行動するには危険だ。やるべきことは一つ、情報を集めること。
「今の音なにっ!?」
奈津美がただ叫ぶ。
それを無視し、
「誰かわかる人いますか!?」
できる限りの冷静な口調で千鶴が全員に尋ねるが把握している者はいない。情報はゼロ、だとしたら、行くしかない、三階へ。
「一旦、自分の教室に戻ります。できれば同じ行動を取った方がいい」
そういって千鶴は教室の扉を抜けようとした。
ところが、まるで空気を切断するかのような速度で、ガシャンッ! と、扉が閉まってしまった。
「どうしてっ!」
叫び、力任せにスライド式の扉を横に引くがビクともしない。近くにいた、麻生望、田辺紀子に手伝いを求め、二人はすぐに駆け付けた。その間にも、千鶴は、古河愛、波真奈美、萩原祥子に後ろの扉を確かめに行かせる。
結果、千鶴は信用できない男子を離した事を後悔するハメになった。
三階に上がってきた先頭の三人は、上がってくるなり一瞬足を止める。爆発音に警戒したのも理由だったが、それよりも映像で見たのは自分たちの教室で間違いない。それならば、他の教室の窓も同じようにシャッターがなくなっていると思ったのだ。しかし、教室の中を確認できるように作られている廊下側の窓ガラスから見た教室は暗いままだ。
良太と荒木はお互いに顔を見る。自分たちのクラスは一クラスから直線状に一番奥にあり、今いるのは非常口側からの階段。そこからだとトイレの入り口が邪魔になり四クラスの角しか見えない。
それなら行くしかない、そう思っているうちに俊介の背中が先頭にたった。後を遅れて追う。しかし、走り出した脚は次第に緩やかになっていった。
先頭の俊介はすでに教室の中が見えている、その俊介が足を止めたことで映像の正体がわかってしまった。加えて、教室から漏れる明かりは人工的な物、つまりあの映像は録画でしかなかったのだ。
それでも俊介、荒木は中に入る。良太は置いてきてしまった直達が来るのを廊下で待ち、姿が見えると首を振った。五クラスの教室に来る間に良太の行動を理解した者ほど愕然と歩み寄り、理解できていない豊と柴崎は息を整えるだけだった。
教室に入ると『裏切り者』のレッテルを張られた三人はまだいた。
「おいっ、ここもTVの映像流れたか?」
荒木が聞いても返事は返ってこない。『裏切り者』として扱われ協力する気にならないのだろう。相沢武雄と上杉幸助は無視し続けた。
荒木がガムテープを持ち出し、ビィーッとテープを伸ばす。
「おいっ、なにする気だ!」
「元々『裏切り者』を縛るために持ってきたんだ。役にも立たないなら尚更、このままにしておけるかよ」
止める暇がなかった。直が荒木に掴みかかり喧嘩に発展している。美紘が良太の背中を、役目を果たせと言いたげに小突いてきた。
言われなくてもやるよ。だけど、ここまで発展すると解決は難しいな。
言い合いをしている二人に近づきながら、もう一人口を閉ざしたままの佐々木鏡花の姿が視界に入る。
「佐々木さん、大丈夫?」
その一言で、言い合いは一旦中断した。
「え、あ、……はい」
ここまで憔悴している鏡花を誰も見たことがなかった。普段は大人しいが暗いというわけでも、友達と話をしていないというわけでもない鏡花は疲れ切っている。
「こんな状況だから、悪いんだけど教えてもらえるかな」
鏡花は頷いた。
良太は指さす事だけで荒木のさっきの質問の回答を尋ねる。すると、鏡花は頷いてその回答とした。
「たぶん、全部の教室で流れたっぽいね。二人も何か気付いたことあれば教えて、それで縛るのはナシ……でいいよね?」
直は荒木から手を離し、後ろに下がる。
「とりあえずは、な……」
荒木も引いてはくれたが、また三人に疑わしい何かが発覚した時点で縛ると言いたげだった。
場の空気が鎮静化すると、良太達が知らない二階での異変が起きる。容赦のない音に肩をビクつかせる。次には千鶴たちと同じ行動を取ったが開くことはなかった。
「また閉じ込められた……」
そうなった途端、良太は手に持っているスイッチから視線を外せなくなっていた。
その姿にすぐに気が付いたのは俊介だ。元々、良太は口車に乗せて動かす駒に過ぎない。先ほどのやり取りでは、直と荒木がいたから言い負かされる形になったが、その結果ボタンを押す最初は良太自身に決まっている。
押せ、早く押せ、今さらビビってんじゃねぇよ。自分から言い出したんだろう。
今度は同じ轍を踏まないよう俊介は何も言わず、ただその時を恨みとして願う。良太の動きだけに意識がいっている俊介には、自分がどんな表情をしているか分からない。恨みで歪み、何かを期待する笑みは他人に恐怖を植えつける。
気付いた者はたったの一人、教室の扉が閉じた瞬間恐怖で俊介の腕にしがみついていた梢だった。梢の脳裏に過ってはいけない単語が思い起こされる。
『裏切り者』
たった一人信じたい人間だったはずが、一度掠めたその言葉によって掴んでいた腕を切り離させた。思い起こしてみれば、俊介はこの状況を楽しんでいるように見えた。昇降口での意見の違いは、単なる目標の違い。梢は二人で逃げたいと思い、俊介はクラス全員を助け出したいのだと純粋に信じていた。
ところが、今俊介が浮かべている表情はなんだ。まるで人が死ぬ瞬間を楽しみにしているようではないか。恋人になって間もないとはいえ、俊介は一度として一緒に何かをしようと言ってはくれていない。それはその瞬間を見たいがためだったのではないか。梢の行動を自由にさせてくれたのは、自分に都合がよかっただけなのではないか、そう考えが纏まった瞬間、梢の俊介を見る目は変わった。こいつと一緒にいるのは危険だ。
梢は教室の後ろまで下がり、品定めを始める。
一人で行動はしたくない。じゃあ、他に誰と一緒にいれば脱出できる? 良太……、俊介に目を付けられているこいつでは意味がない。他らには荒木、根本的に無理だろう。残るはレッテルを張られ教室に残された三人と直のチームは? だめだ……直のチームは可能性としてはアリだが、良太と仲が良い直に加えて、何かと文句を言ってくる美紘がいれば裏で私をのけ者にする可能性がある。残された三人は論外だ。
「(どのみち、俊介の傍をすぐ離れたらマズイよね……。様子を見て他の人と合流しよう)」
密かに行われている裏切りに誰も気づくことはなかった。




