一つじゃない②
渡り廊下を通り、体育館にいたのは真壁信也、根本武、柳生健の三人だった。三人はチームの存在を知らない。先頭に、信也が廊下に出たのを二人が目で追いかけ、何も考えず行動しているうちに三人が集まっただけの寄せ集めチーム。
「どうする?」
「わかんね」
「ってか、今日中に終わるのか、ふわぁああ」
三人には目的がなかった。
「体育館にきたものの」
「バスケでもやる?」
「ははっ、それはさすがに非常識」
そう言いながらも、健は準備室にはいると一つのバスケットボールをつきながら、遊ぶ準備を整えた。
「ほんとに持ってくんなよ」
「へへ、いいじゃん。どうせゲームだろ。やるかやらないかなんて自由じゃん」
パスの末ボールは信也の元へやってくる。
「まぁな、シュート」
ゴールをくぐったボールが転がり、二人がボールを追っかけ一対一を始めた。その間、呆れながら混ざることはせず、武は体育館の壁に寄しかかって眺めていた。すると、ガタン、と準備室で何かが倒れる音がした。
「なんだ?」
音に振り向き、二人にも音が聞こえたか確認しようと振り返える。だが、すでに遊びに夢中の二人には聞こえていないようで、ハーフコートを走り回っていた。
「いちいち呼び寄せる必要もないか」
調べるくらいなら一人でもいい。何かあったら、逃げればいいのだ。お二人を置き去りにする形に一瞬なるけど、すぐに後を追いかけてくるだろう。
その程度だった。あの映像を見たときは確かに恐怖を感じたけれども、すでにそれは誰かのトリックのある作り物。だから、警戒心なんて持ってない。
準備室の扉を自然な形で開ける。
「あ……れ?」
開けてみて初めて気づく違和感に目の前に広がる当たり前の光景が意識からはじき出された。
代わりに今日行ったばかりの授業の記憶が蘇る。
男子と女子が体育館の半分に分かれて行う体育は、基本的に教師が来るまでなにもすることがない。それはボールなどの用具は一時間の授業ごとに鍵の掛かった準備室に片づけられているからだ。
ならば、なぜ健が準備室からボールを出せたのだろう。教師が鍵を掛け忘れたから、可能性はゼロじゃない。でも、健は鍵の事を一切触れなかった。
一人、武はゲームに戻る。
一度、遊んでいる健を見ると、その視線に気付いた。
「何? なんかあった?」
なぜ、すぐに気付いた? 俺が準備室に行くのを警戒していたからではないか? そうなると健は『裏切り者』になるんじゃないのか。でも、何に警戒するんだ。なにかあるのか?
思考を一つまた一つと疑心で固めていく。
「(ゲームを抜け出す何かがここにあるんだ!?)」
信也には尋ねられない。今信也を呼び出せば、健も近づいてくる。このことは健に気付かれずに見つけなければならない。
疑心が暴かれないために扉を閉めることもできず武は準備室に入っていった。
「なんだ、あいつ?」
「なんだろな。なんかあったのかな?」
後ろで二人が様子を窺っている。
「お、俺もボール持ってく」
おもわず声が震えた。
「一緒にやればいいじゃん」
その声が健のもので肩が跳ね上がる。
しかし、次には気にしていないのかボールが跳ねる音が届き、信也の声を混ぜながら健の遊びだした声も届いた。
いつの間にか額に汗が浮きでて、武は一人深い息を吐いた。
「(時間、掛けられないよな。早く探さなきゃ)」
数分後、武もまた見つけ出した。