チームの始まり
「なに、景山も?」
居心地悪そうに豊は顔を伏せた。独断、嫌味やチームに入れたくないと思っての言動ではない。あくまで同意に他ならないはずだ。
「まぁね。そっちも?」
「ああ。で、どうする?」
単純に良太の人見知りを考慮に入れての問い。チームを前提に考えての質問に良太は少し考えた仕草を加えた。不安を覚えたのは豊だった。
出遅れたことに加えて、勘違いとはいえ一度は直を疑っている。そんな事を良太が直に教えればチームには入れない。仮に教えなくとも直と豊の今後の関係を考えれば入れない方がチームの為になる。
ところが、良太はそもそも前提としているチームを良いとは思っていなかった。
「チームは任せていい?」
「へ?」
「それって、良太はチームに入らないってことか?」
「まぁ、そうなるかな」
「ちょっと待ってくれよ。なら俺はどうすればいいんだよ」
豊にしてみれば、良太がいないチームでの発言力をなくしていると勝手に思い込んでいる。ただチームについていくだけの存在ではいつ見捨てられるのか恐れているのだろう。
「なんだよ、それ、俺じゃあ頼りにならないってか?」
疑われたことを知らない直からしてみれば、そう考えてしまっても仕方がなかった。豊が黙り込んだことでそれ以上は弱い者いじめだとどこかで感じた直は、豊に攻め寄ったりはできない。
「それも含めて直に任せる」
「よく分からねぇけど、なんでそうなった?」
順序を逆にすればよかったと後悔しながらもチームに入らない理由について良太は説明し始める。
「できれば全員で協力した方がいいと思ったけど、教室から出て行った皆を見てると疑いは晴れそうにないし、一人で行動している人数も結構いるんだよ。それで――」
これからの意図を説明しようとするタイミングで、美紘とエナも戻ってきた。長い時間二人だけで廊下にいるのを恐れたのだ。美紘は直と良太、ついでに豊がいることを確認し、話されていることが自分たちの事だろうと口を挟まないようにして教室にいる人数を確かめている。
「ちょうどいいか、直、二人呼んで」
「いや、聞こえてるだろ」
そこは素直に言うとおりにしてほしいと思いながらも、悪いのは女子二人に呼びかけることができなかった良太が悪い。実際、良太の声を聞こえていた二人は直が手招きしただけで近づいてきてくれる。
近づいてきた美紘は、早速嫌味を加えてチームについて尋ねた。
「で、私たちは入れてくれるの?」
言い方は下手に出ているが、それはあくまで自分たちを守る為。豊が増えていることで男子の結束のようなものを感じた所為で、警戒心が見え隠れしていた。
その所為で美紘とエナについての話から逸れていた所為もあり、良太は話し辛くなってしまった。
ちらりと直をみて助け船を求めるが、直はあまり気にしていないようで、続きだけを待っている。豊は気付いていたとしても、何も言えないだろう。そんな時、助けてくれるのが、小池エナという存在だった。
「ひろちゃん」
たった一言だった。それだけなのに、新しい空気が入る。
「分かってる」
会話の切り口が開いたことで、良太は急いで話を戻した。
「チームは組むんだけど、俺は単独で動く……」
視線が一斉に集まった。
その中で美紘の視線が一番強い、それだけ聞けば一番安全な立場に思われたのだろう。誤解を解こうとしても、嫌悪と悪意が混ぜられ、たびたび美紘の疑問は挟まれる。
「どうしてっ?」
「で、できれば、全員にこんな状況になる前のことを訊くのに都合がいいから。複数いるチームは人数的にも聞きやすいと思うけど、一人で行動している奴は、こっちが人数いると話してくれなさそうで……」
「なにを訊くの?」
「いや、だから、」
「――っ、このゲームが起こった原因を聞くのは分かってるっ。そうじゃなくて、原因らしい事を探らないといけないんでしょ。その原因に思い当たることがあるのかってこといてんのっ」
勢いに負けそうになる。なにより美紘の言っていることにちゃんとした答えを持っていなかった良太は、言い辛くて仕方がなかった。
「…………そこまでは」
答えた途端ため息を吐かれた。
見るからに呆れたのだろう。
「まぁ、いいけどさ。他に分かってること整理した方がいいんじゃない」
提案を出したのは良太で、美紘はあくまで茶々を入れているだけ。事実、美紘にも原因は思い立っていないのであれば、それ以上は責めたりはしない。
当然、それだけだと美紘は自己中心的に文句を言っているだけの利己的な存在で終わってしまう。だから、良太が適役なのを認め、自分なりの提案をした。
「そうだな、携帯って無いよな」
直が新たに仕切り役に転じてくれたおかげで、良太はようやく安堵の息を吐いた。元々こういう役割に向いていないのだ。
腕に体重を預けて少し休憩に入っている良太の仕草を見ていたのだろう、エナが申し訳なさそうな表情を浮かべ、謝罪代わりのように微笑んでいた。
同じように笑顔で返し、ささやかなトキメキを感じていたのも束の間、
「何二人で笑い合ってんのっ、携帯は?」
「す、すいません、無いです」
良太にだけ向けられた美紘の檄で終わりを遂げた。