信用できる者④
「こ、これからどうする?」
千葉俊介と加藤梢は一緒のクラスになってから片思いだった梢から告白し、それに俊介が応えて付き合い始めた。
「そうだな、ひとまず昇降口に行くべきだろ。学校なんて出ればいいだけだし」
「そっか、そうだよね」
俊介は他校からも噂されるほど人気があり、カッコイイと評判の人物だった。付き合う前からも、付き合い始めてからも、そんな俊介に遠慮していた梢は、まだ手さえ繋げていない。だが、不安から梢は俊介の手を思い切って握った。
勇気のいることだった。こんな状況で拒まれでもしたら二人の関係どころか、敵にさえなりかねない。
「出てからは、警察に任せよう」
ところが反応はあまりにもなかった。それでも行動に移せた勇気と、手を握れたことで梢は充実感に溢れている。だから、映像のことを必死に忘れようとしていた。
「あの、映像本物だと思う?」
ところが、他人は他人の心まで分からない。だから、仕方のないことだと梢は思う。でも、もう少し気を使ってほしいとも願う。
「わからない」
それでも何も言えない。言ってしまって、もし、別れ話にでもなったらどうしようと思うからだ。信用と頼れるのは俊介しかいない。だから、必死に我慢の蓋をする。
「俺はあの映像偽物だと思う」
一瞬、気を遣ってくれたのだと、喜びそうになった。
「ドッキリにしたってあれはやりすぎだろ? だいたい学校に人がいなくなること自体おかしい。そうなると、学校の関係者が協力しないと不可能。仕掛けもTV業界が関わらないとできないほど大がかりだ」
しかし、俊介の言葉はあくまで合理的に出てきた推理の結果。
梢は、こんな状況で浮かれる自分の方が悪いのだとそれを一切合切隠した。
それでも、俊介の言葉には救いがある。これは現実に起きている非現実的な現象で、人の手を加えられたイタズラなのだと。
「そうだよね。じゃあ、早くギブアップしてここから抜け出そう」
「うん、分かった。俺は『裏切り者』を見つけてみるから」
愕然とした梢の手から力が抜けた。
あれだけ勇気を絞って繋いだ手は、今はもう俊介に掴まれているだけ行為でしかなくなっていた。