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女神の誓剣  作者: 長月遥
第六章 刻皇再生
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第八十八話

「いや、別に謝られる程の事じゃ。警戒心強そうだったしな」


 情報はあればあるだけ良いと思って聞いただけだったから、本当に気にする程の事じゃないんだが、無表情ながらディードリオンの空気が一回り重くなったのは、気のせいじゃないと思う。


(これは、失敗を引き摺るタイプと見た……!)


 いくら誇り高いったって、一気に自殺考えて実行しちゃう奴だもんな。お前取扱危険物だろ、実は。


「話を聞くに、どう考えてもそいつァ普通じゃねェ。つってもだからってこっちに出来る事も限られてる。取り敢えずは――レーゲンガルドの奪還だな」


 ミットフェリンの北、アイルシェルの北西に位置する、土の精霊王である境王(きょうおう)の領界。閃皇(せんおう)は囚われたまま所在不明、刻王(こくおう)は未だ再生せずだから、自然な考えだろう。


「あら? でも、ネクス」

「何だ?」

「先にルトラを迎えに行ってあげた方が良くないかしら。少し前から闇のエレメントも復活してきている様よ?」


 頬に手を添え、何気ない提案の様に言ったユーリィの言葉に、俺とネクスは慌ててエレメントを注意深く探ってみる、と。


「本当だ! 闇のエレメントが復活してやがる!」

「良く気付いたな?」


 確かに感じられるけど、その乏しさって言ったらない。集中してようやくわかるレベルだからな。

 ユーリィに言われていなければ、多分スルーしてレーゲンガルドに行ってただろう。


「何しろやる事がなかったから」


 外がどうなっているか、何の情報も与えられなかったユーリィが少しでも探るには、自分の五感しかなかったから――という訳か。


「プルオーネは魔人共の巣窟だ。身動き取れなくて困ってるかもしんねェ。俺は迎えに行ってくっから、お前等は待ってろ」


 お前等――というのは俺とユーリィに向けられた言葉だ。

 確かに大分消耗しているし、力量的にもアレだし、迎えに行って帰って来るだけなんだから、人数はむしろ少ない方がいいかもしれない、とも思うが……。


「大丈夫か?」

「テメェに心配される程落ちぶれてねェ」

「そういう問題じゃないだろ」


 プルオーネは本当、俺達にとって今最大のアウェー領域だから。ミットフェリンの比じゃないから。


「それに、ルトラの事は俺も気になる」


 同じ精霊王だからとか、属性的に対だからとか、そんなんじゃなくて……何だろう。俺が目をそらしちゃいけない様な気がする。

 ここでネクス一人を行かせるのは、何か間違った結果を生みそうな、そんな不安だ。


「……まァ、そりゃそうだろうが……」


 しかし純粋に仲間思いであり、同族に対して絶対の信頼を置いているネクスは、俺の言葉をそのままの意味に受け取って、態度を緩めた。微妙に罪悪感がある……。


「なら、俺も行こう。どうせレトラスも離れねばならんし、丁度いい。俺ならそのままプルオーネに留まっても十分な行動ができるしな」

「それは、そのまま向こうで情報収集してくれるって事か?」

「そろそろ、魔人や魔王を相手取る事を考えて動向を気にしてもいい頃だろう。目立つ勢力となって来たからな」


 それは勿論、ありがたい。プルオーネに入って動ける人員は限られるからな。


「ふざけんな。魔人となんざ行動出来るか!」


 プルオーネに入れば間違いなく俺達の中で最強戦力になるディードリオンの同行は、絶対ありがたい……ん、だが、ネクスは……無理か……?


(どうすりゃいいかな)


 ネクスを説得するのが一番いいんだが――


「つまらねェ提案すんなよ、ハルト。俺ァ魔人と行動なんざ、絶対にごめんだ」

「なら、考え方を変えればいい。俺を監視する、という事ならどうだ」

「あァ?」


 ディードリオンの言い方が自虐的なのがまた微妙に気になるんだが、俺よりもネクスの方が不快気に顔を顰める。


「お前以外に、俺とやり合える戦力は今はないだろう。お前と皓皇が揃って留守にするなら、いよいよだな」

「……テメェ……」

「あら、じゃあついでにもう少し親しくなりましょうか」


 にこにこと笑いながら続けて言ったユーリィが視線を送ったのは、ディードリオンへ。

 ……あの、えっと。これは、マジなのか、ユーリィ。本気で?


「ユーリィ! テメェな!!」

「鬼の目を盗む訳ではないけれど、ね」

「く……っ」

「諦めろ、ネクス。お前の負けだから」


 ユーリィが本気かどうかはともかくとして、ネクスとしては万一にも避けたい事態だろう。ギリギリッ、と噛み砕かないか心配になる勢いで歯を噛み締めて――


「くそ、覚えてやがれ、ユーリィ、ハルト!」

「俺もか!?」

「たりめーだ! つか、この流れんなったのは、そもそもテメェがクソ甘ェからだ! ――ディードリオン!」


 荒い語調のまま、ネクスはディードリオンの名を呼ぶ。そこに肯定的な感情は見えなかったが――


(でも、『ディードリオン』なんだな)


 『ハ・イグジェラ』ではなくて。

 それはちょっと――聞いてて嬉しかった。


「……何だ」


 散々『魔人が』とか言ってたネクスが、普通に自分の人としての名を呼んだ事に少し驚いた表情をしつつ、実際そのせいで少し無用な間を開けてしまってから、ディードリオンは答えた。


「テメェで言ったんだ、忘れんな。妙な真似したら叩っ殺す!」

「ああ」

「それと、ユーリィに手ェ出してもやっぱ殺す!」

「……それは、絶対ない」

「あらあら」


 ちょっとためらった後の否定が怪しかったりとか、笑顔が微妙に怖い感じのするユーリィとか。

 ……恋愛は二人が納得してれば自由だと思うんだ、うん。





 はっきり言って、今のプルオーネは俺達が手を出せる状態じゃない。実体験して来た俺が言うんだから間違いない。だから、本当にルトラを迎えに行って帰って来るだけだ。


 そして今回も足を貸してくれるのはフツカセ生息の青竜達。

 ネクスとアリスト、俺とリシュア、そしてディードリオンの三組に別れて騎乗する事になった。主の影響だろう、青竜達はディードリオンが乗るのを嫌がったが、逆にネクスの命を受けると大人しく従った。

 今は疲労状態と健康チェックを兼ね、最後のケアの最中だ。それが終わったら、出立する。


「あんたって本当、忙しないわよね」


 早めの見送りに来てくれた――のはいいんだが、フィレナの言葉も態度も不機嫌そうだ。というか、不機嫌だ。

 理由も判る。ついて来ようとしてディードリオンとネクスに止められ、全員一致で二人が支持されたから。


 ユーリィによってフィレナの傷も完治していたが、わざわざ大勢で危ない所に行く理由もないからな。


「俺が忙しなく動いてるのは、俺のせいじゃないぞ、多分。それにルトラは早く迎えに行ってやらないと。プルオーネじゃ息苦しくて仕方ないだろ」


 本来なら自分の領界内の方が楽なはずだが、プルオーネに関しては絶対に例外だ。躊躇ってもこっちに連れて来てしまった方が良いだろう。

 魔力の濃さというのもそうだが、敵の多さというのもきっと世界でズバ抜けている。


(……ルトラ……)


 どんな奴なんだろう。


「でもあんた、覚えてないのよね?」

「覚えてないけど、多分会えば判る。ネクスもユーリィもそうだったし」


 どんな奴なんだ、とかって聞くのもなんか違和感がある。俺以上に多分聞かれたネクスやユーリィの方がそう思うだろう。


 聞いた所で所詮情報でしかないし、会えばわかるんだし、まあいっか、と思って何も聞いてないからどんな奴なのかほとんど知らない。

 知ってると言えば、せいぜいが人間嫌いらしい、って事ぐらいか。


「……ふうん」

「何だよ?」

「精霊皇同士って、やっぱ仲良い訳?」

「記憶ないっつってる俺にそれを聞くのか? まあ、悪くはないんじゃないか?」


 今の所、ネクスともユーリィとも上手くやって行ける自信がある。やっぱりより『同族』っていう感覚が強いからかな。


「……碧皇ってさ、兄様の事、本気なのかしら」

「さあ。流石にそれは本人に聞いてみないと」


 不躾な質問だし、聞こうとか思わないけどな、他人の色恋沙汰なんて。あ、フィレナには他人じゃなくなるのか。


「……」

「俺は聞かないぞ」

「わ、判ってるわよ!」


 慌ててフィレナは同意したが、でも多分、期待してたっぽい。


「……でも、もし本気だったら――あんたは、どう思う?」

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