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女神の誓剣  作者: 長月遥
第五章 レトラスの魔王
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第七十二話

「妾に、何ぞ頼みたい事があるのではないか?」

「……同盟以外に、お前に求められるようなものは」

「貴様の元にはレトラスの王女がおろう」

「っ!」


 指摘され、正直言って驚いた。

 驚いたけど、こっちの勢力の情報がタタラギリムに伝えられてるのは、当然だ。興味を持って調べなくても入ってくるだろう。知ってて当然だ。


「……彼女も判ってる」

「そうであろうな」

「……ああ」

「だからこそ、言えるのは貴様だけじゃぞ?」

「っ」


 見透かされてる。

 ……そりゃ、そうか。俺がどう考えるかとか、一回言い合ってるタタラギリムなら判るのも自然だ。


「良いのかえ?」

「……嘆願は、出来ない。俺はお前の一族がディードリオンに虐殺されてるのを見てる。その上で、どの面下げて言えって言うんだ」

「貴様はほんに、可愛いのう」


 つ、とタタラギリムの指が俯いた俺の顎を持ち上げ視線を捕え、二ィと笑う。


「そして、哀れよ。貴様は王たるには、全てに心を寄せ過ぎる。全てが納得できる落とし所などそうそうない。一つ一つを気に掛け、気に病むつもりか?」

「……」

「貴様を見ていると、どうにも甘くなる。貴様のために殺さずにおこうと、そう言ってやりたいと思うぐらいには。――しかし、言えぬ。妾は許せぬ。奴等は妹の仇ぞ」

「判ってる」

「だから、望み通り魔人共に過剰な攻撃はせぬ。投降も認めよう。だから、少しは笑え」

「……」


 心配……心配してくれてるんだよな? これは。しかも俺の感覚からしての、普通に。


「今そのような有様では、貴様、持たぬぞ。貴様の心が壊れるのは惜しい」

「なぶり甲斐がないからか?」

「そうじゃ」

「それは嫌だな」


 俺が苦笑すると、タタラギリムも笑んで見せた。晴れやかに、という訳にはいかなかったが、今俺が自分の心のままに表情に出せる中では、人に見せて一番マシだったと思う。


「気ィ遣ってくれてありがとう。けど大丈夫だ。請われる程俺は人に優しくない」

「さて、自分の事は存外自分では判らぬものよ」


 そう、なんだろうか。だからネクスにも心配されんのかな。


「忠告は覚えとくよ。じゃ、水の宮の方にも挨拶して来るから、またな。次は多分、レトラス攻略ん時に南で会うか」

「うむ。ではな」

「ああ」


 タタラギリムと別れ、そのまま水の宮の奥へと向かう。やっぱりこの広い宮には、今の水の精霊族の人数は寂し過ぎる。


「――あ! 皓皇様!」

「ルーティール。元気そうだな」

「はいー。元気です」


 いつ見ても和ませてくれるほんわかとした笑顔で、ルーティールはそう答えた。


「皓皇様がいらっしゃったという事は、いよいよですね」

「ああ、近いな」

「どきどきします……っ」


 言いながら、ルーティールは胸元に手を当てて見せた。微妙に緊張感がないのもそうだが、今ちょっと引っかかったぞ。


「どきどきって、ルーティールも戦場に出るのか?」

「あ、はいっ。本っ当少人数で申し訳ないんですけど、私達も十人程、お手伝いさせて頂きます。治癒や防御には、少しはお役に立てると思いますっ」

「そうか」


 戦力は多くて悪い事はない。治癒役も大切な戦力だ。


「よろしく頼む。……ところで、水棲馬がいないみたいなんだが、帰したのか?」

「はい。ケガをしてる子も治ったので。宜しかったんですよね?」

「ああ」


 とても今でもそうは思えないんだが、危ないらしいし、早めに水の宮から離してしまった方が良いんだろう。


「シャーリーンさんは?」

「あ……っ。すみません、今は……」

「そうか……」


 言葉の先は濁されたが、それで十分だ。今日は体調が良くないんだろう。


「判った。無理をしないようにって伝えといてくれ」

「はい」

「ルーティールも」

「……はいっ。ありがとうございますっ。大丈夫です!」


 嬉しそうに笑ってルーティールは敬礼を返す。いつも通りだが、大丈夫だろうかと不安になる。

 まあ、彼女は今回癒し手だもんな。罪悪感は然程持たなくて済むか。


「あ……。すみません。不謹慎ですよね」


 俺の微妙な間の意味が通じたらしく、ルーティールはちょっとばつが悪そうにそう言った。戦争である自覚はちゃんとあっての上でらしい。


「ただ――碧皇様のお力になるだろう何かが出来るのが、初めてだったんです。だから、つい……。すみませんでした」

「いや、俺こそすまない。当然だよな。――一緒にミットフェリンを取り戻そう」

「はいっ」


 再び気合の入った全開の笑顔を見せるルーティールと別れ、俺は水の宮を後にする。シャーリーンさんに会えない以上、ここに留まる理由はもう無い。実際の所、彼女が指揮をしている訳ではないだろうし、後は水蛇族が上手く取りまとめてくれるだろう。


「では、ウルクともここでお別れですね」

「ああ、いや」


 予定ではリシュアさんの言う通り、ここでウルクと別れて東側を回って南へと向かう事になっている。

 なっている、のだが。


「……皓皇様?」

「時間の余裕はまだあるし、レダ森林に行ってみたいと思わないか?」

「……」

「……」


 俺の提案に返ってきたのは、二人揃っての沈黙。そしてややあって、リシュアが深く溜め息をついて。


「まあ、仰るのではないかと思っていました」

「奏皇様、多分……また、怒り、ますけど」

「やった者勝ちだ」


 ……でも怖くない訳じゃあないんで。


「でも出来るがぎり秘密で行こう」

「その方が宜しいでしょう」

「急ぎ……ましょう。風の擬似精霊が来る、前に」


 二人思納得が早くなった。慣れたのか諦めたのか、どっちだろうか。両方かな。


「という訳だ。お前のテリトリーまで一緒に行こうか」


 言いながら首の側面を撫でると、茫洋押した瞳が見上げて来た。


『テリトリー?』

「レダ森林だ。お前、そこに住んでたんだろ?」

『……?』


 極ゆっくりと、ウルクは考えているような瞬きをする。少し待ってもそれ以上の反応は何も無い。理解、してなくないか。これ。


「……お前、まさか自分の住処にも帰れない、のか……?」

『……?』


 何か駄目っぽいな。


(水の宮から解放された奴等、無事に帰れたのかな……)


 今更ながら、心配になった。本当に今更だから遅いけど。

 途中で見掛けたら回収して行ってやろう。


「ま、一緒に行くから大丈夫だ。心配するな」


 最新情報はとにかく、地形はそんなに変わる訳がない。今回はバウゴ候から地図貰って万端で来てるから、迷わず行けるぞ!


「良し、ウルク、行くぞ!」

『行く』


 大分俺達に慣れたウルクは自分の行き先に疑問も持たずに頷いた。

 ……本当に危ない種族なのか? こいつ等。

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