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女神の誓剣  作者: 長月遥
第五章 レトラスの魔王
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第六十八話

『――さて、面子が揃った所で、レトラス攻略への会議を始めようか』


 数日後、体調を回復させた俺がマトルトークに光の擬似精霊(ウィル・オ・ウィスプ)を放つと、そこにはもうネクスの風の擬似精霊(ジン)が来ていた。

 風の擬似精霊の姿からネクスの声がするの、やっぱり凄く違和感があるな……。本人も気にしてるっぽいから言わないけど。


『レトラスは王都を中心に、東西南北に町兼城塞を持つ大都市だ。何も無い平地だからこそ、その防壁は強力に作られている。正面突破は厳しいだろう』


 その防壁を維持しているのはレトラスの人口の多さと生産性。ミットフェリンは雨が多く農耕には適さないかと思いきや、土壌は水捌けが良く根腐りするような事はないのだという。植物そのものも適性が付けて行くしな。


 平地面積が多いのは元々農耕には利点だし、生産性が高くなれば当然人口も増えて行く。世界的にもレトラスが結構な勢力を誇る大国になったのは、この本国の立地条件のお陰だ。


『一番遠い地下通路は、確か城塞越えた南にあったはずよ。繋がってるのは町の王廟の近く。入口は凄く大きな神殿だから、すぐ判るわ。と言っても、廃墟だけど』

『廃墟、ねェ。まァ、宿営地とでも思ってくれりゃもうけものだけどな』


 フィレナの言葉に返したネクスの答えは、否定的ではない。


「城塞はスルーなのか?」

『いや、先にちょっかい掛けとくべきだろう。ついでに王都からも応援を呼ばせると望ましい。抜け道使って送り込める兵の数なんて、たかが知れてる。お前の話からして俺等が内側入っても余計不利になるだけだろーから、俺ァ外から戦るわ』


 ネクスが城塞攻めに乗り出したら、レトラスとしても応援は出さざるを得ないだろう。こっちとは逆の意味で、ネクスの相手ができるのはディードリオンかエレネアぐらいだ。どちらか片方だけが出て来てくれるなら、外でケリ付けてもそれはそれでいい。


 ただ、二人共フットワーク軽そうだったのが少し心配だ。上手く分断して、タタラギリムと各個撃破の形に持っていければいいんだが。

 いくら何でも自分達が攻められてる時に王城空にしないとは思うが、だからこそやりそうな気もするよな……。


『水蛇は北、マトルトーク軍は東。俺等が南の陽動って所だな。光の精霊族は戦力っつーより回復支援役だ。お前等しかまともに治癒術使える奴いねェし。ただマトルトークが心配だから、そっちに多めに振り分けとけ』

「判った」

『西は……水棲馬の縄張りに近ェから近付きたくねえ。飼い慣らされてるっつったって、飼われてんなァ城にいる奴だけだろ。刺激するよりゃ放置のがマシだ』

「風の精霊族でもか? 確かに体力凄かったけど」


 水の宮を攻めてた時、足として以上の役割は果たしていなかったから、それ程脅威だとは思わなかったんだが、ネクスの言い様には怖れがあった。


『あいつ等が一番怖ェのは体力じゃねえよ。ピンポイントで雷降らされりゃ軍なんか動かしようねえし、近付いただけで毒にやられる。死骸の処理も手間かかるし、一匹でも自陣に入れたら大損害だ。面倒くせェ奴等なんだよ』


 ……あれ、リシュアさんの話、本当なのか?


「なあ、俺思うんだけど、それ大袈裟に伝わってるだけじゃなくてか? もしくは六百年のうちに能力退化したとか。今俺の所にも一頭いるけど、全然大人しいぞ。ってか基本怠け者だし鬣触っても何ともないし」


 もう本当に、食って寝てしかしてないから、ウルク。

 始めはやっぱり遠巻きにされてたけど、本人気にする風もなくマイペースで、皓の森の住人達も大分慣れた。仔ユニコーンなんかは怖れ知らずで結構懐いたりもして、親に怒られてたりする。


『はァ!? 一頭いるって、何だ!?』


 あ、そうか。言ってなかったか。ウルク見る間もなくネクスはフツカセ帰ったしな。


「ミットフェリンから帰って来るのに協力してもらったんだよ」


 そろそろ傷も治ってる頃だろうから、水の宮からは放されたかもしれないが、そっちも一頭残らずまったりさんだった。


『馬鹿かテメェ、さっさと帰せ! 暴れたら酷ェ被害出んぞ!』


 切羽詰まった声で怒鳴られた。そんなになのか。


「ミットフェリンに行く時に一緒に連れてって帰すつもりだ。今は皓の森満喫してるから心配ないと思うぞ?」


 言って、つい座っていた席から立ち上がって窓から階下を見る。水辺の傍で足をたたんで寛ぎながら、口の届く範囲の木の実をもっさもっさ食ってる。

 ……どう見ても平和な感じしかしないだろう、この光景。


 まあ、飽きたっぽくなったら俺達がミットフェリンに行く前でも帰すし、心配ないだろ。流石に皓の森で飼う気はない。その地域に居ない生物は原則持ち込まずにおくべきだ。


『テメェは、何っでテメーから危ねェ事したがんだ!! 馬鹿がッ!!』

『心配だから自重してね、ってお願いですよ、皓皇さぐはァッ!!』


 割り込んできたアリストの声は、ごっ、がっ、という鈍い音が響いて、静かになった。効果音を付けるなら『死―ん』だな。

 いや、しかしアリストも無事だったようで何よりだ。今無事じゃなくなったかもしれないけど。


『馬鹿な真似して一々足引っ張んじゃねえ、つってんだよ』

「……気は付ける」

『じゃあ、その、西の城塞は放置って事でいいのね』

『あァ、戦力回す場所は少ねー方が厚み持たせられるのはそうだしな』

「城塞の目を引いて、出来れば王都からも応援を出させる。その隙に内側に侵入して城下と城を分断、城を制圧する――って事で、いいんだよな?」

『ざっとそんな感じだ』


 城塞都市から王都まで、知らせを受けて軍が戻るには、少なくとも数日掛かる。騎馬隊でだって三日は要るだろう。そこまで時間が掛かる頃には、こっちが全滅してる。


 大多数の魔人達とこっちの力量はそれなりに拮抗してるし、水蛇族や風の精霊族にとっては圧倒していると言っていい。

 けど、おそらく中央にいるんだろう、水蛇族襲撃の時にディードリオンが連れて来た魔人達は、皆結構な力を持ってた。個々人の錬度も含めて。彼等が果たして、レトラスでどれぐらいの割合を占めてるのか……。


『もし頭が二人共王宮を離れないようなら、北と東の城塞を落とす。無理なら東だ。成功しても無理でも、その時は一回仕切り直す。それで性格も大体判るしな』


 出てきたのを確認してから向かわせないと、王都攻めの方が全滅するだけだからな。


「王都攻めに移った時、タタラギリムが入るのはそうだとして――」

『あんたは来なくていいわよ』

「……」


 先を読まれて、よりによってフィレナに言われた。何でだ。何か悔しい。何となく。


「でも、お前……」

『私は行くわよ、当然』

『当然だな。レトラスの王権をスムーズに移すためにも、王女は一番に王都に入るべきだ』

「……」


 それは勿論、フィレナが行くのはそうだと思うが……。


『テメェがいて、何ができんだ?』

「……出来ない」


 ネクスから向けられた至極現実的な問いに、逆らえない。


『出来る事をしろ。その方が役に立つ、つったよなァ? 前』

「言われた」


 そして正論だよ、クソ。


『城と町の分断部隊は、マトルトークの将に指揮してもらおう。同じ国の人間のやる事だ。そっちの判断のが正しいだろう』

『承知しました』


 答えたのはバウゴ候の声。リカルド隊長かアルベルト隊長か、その辺りの人がやる事になるんだろうな。

 分断部隊は魔人と人と水蛇族が中心になるだろう。精霊族じゃ魔気に邪魔されて能力半減だ。使いどころが違う。それでも支援部隊としては組み込む必要があるだろうが。


『まァ、そんな所かね。後ァ、ハルト』

「まだ何かあるのか」

子供(ガキ)じゃねえんだからいじけてんな。お前とケルガムは南に来い』


 今回は多分、戦力とみなしてくれた、と思っていいんだろうな。それと同時に見張るためでもあるんだろうけど。


「判った」


 どこにいるとしても、やるべき事をやるだけだ。ネクスと共に、という事はディードリオンかエレネア相手が想定だが、立場からすれば妥当だろう。


『アリストに先にセイレーンとドリアードん所回らせてみる。数人でも借りられりゃそれだけで違うからな。ハルト、お前も先に水蛇ん所行って話通してこい』


 水蛇族は今回の戦いの中で、風の精霊族と並んで主力だ。タタラギリムの性格からして、下手な使者を送るより、俺が行った方が間違いなくスムーズに運ぶから、その方が良いだろう。


『準備が終わったらもう一回擬似精霊を送る。テメーん所にも送るから、光の擬似精霊は作らなくていい』


 ミットフェリンで擬似精霊なんか作ったらまた偉く消耗するもんな。ネクスは通信終えたら回復してからフツカセを出るつもりなんだろう。どっちにしろ、作戦中は必要になるんだろうけど。


『次は、部隊の詳細決めての報告だ。問題無けりゃ、攻略開始だ。いいな』

『判ったわ』

『承知いたしました』


 フィレナとバウゴ候からも承諾を得て、会議は終わった。

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