始まりの朝
また、あの夢を見る。
無残にも食い散らかされた人々。黒く薄暗い空。
その真ん中で、数多の屍に腰掛ける男。
その男を見上げる、俺。
紅く、深い瞳。背中ほどまでの黒髪。3本の日本刀を腰につけた男。
男は言い放つ。
『所詮は下賎の血筋か、魔と手を結び人を助けようなど・・・・・・戯言でしかない』
男は腰の刀を一本抜刀し、俺の喉元に突きつける。
『お前に守れるものは、何もない。自分の身すら守れず。最愛すら守れず。死んでゆくのだ。』
喉元の刀が・・・・・・俺を貫く。
そして俺の意識は、またまどろみへと戻された。
『ハッ!?・・・・・・』
ベッドから起き上がる。最悪の目覚めだ。
幼少の頃から見続ける悪夢。そして同じ目覚め。
『……慣れないもんだ、殺される感覚というのは』
着替えようとベッドが降りようとする、すると部屋のドアをノックされた。
『おはようございます、帝様。朝食の用意ができております。部屋へお持ちしますか?』
『あぁ、いい。着替えてそっちで食べる。』
『かしこまりました、ではリビングのほうへお持ち致します。』
『わかった、あともう一つ。』
『はい?何か?』
『二人きりの時は、“帝様”はやめてくれ堅苦しい』
『ふふっ、わかりました兄さん。』
ベッドから降りる、服を脱ぎベッド脇に放り投げスーツに着替える。
『おはよう、雪。いつもすまないな』
テーブルに料理を並べていた、妹謙メイド―雪が振り返る。
『おはようございます、兄さん』
ソファーに腰掛けて、コーヒーを受け取る。
『今朝は、うなされていたようですね。体調が悪いのですか?』
『いや、もう慣れたからな。体調は大丈夫だ。それより……』
『帝、醤油とってくれ』
『醤油とってくれじゃない、なんでお前がいるんだ直樹』
相沢 直樹―俺の親友兼秘書。いつもは時間通りに迎えにくるはずだが……。
『なんでってお前、朝ご飯をごちそうになってるからだが?』
『なにを当たり前のように!?、だから!なんでウチで朝飯を食べてるんだ。お前はいつも食べてくるだろう』
料理を並べ終わり、自分も席についた雪が笑顔で答える。
『私が誘ったんですよ、早めにいらっしゃって兄さんも少し準備で時間かかりそうだからって』
『そういうこった!』
『…朝から食い過ぎで腹壊しても知らないからな』
そんなこんなで3人で食卓を囲む。朝食は和食のみ、パンはほとんど食べない。
ふっくらとした白米に、味噌汁。焼き魚。基本を押さえたいつもの朝食。
『ごちそうさま』
『ごちそうさまでしたー』
『ごっそさん!うまかったよ雪ちゃん!!』
雪がエヘヘと笑う。
俺は自分の食器類をキッチンへ持っていきながら時計を見る。
『直樹、そろそろ時間だ。出発するぞ』
『ん?そうか、オッケー表に車回してくるわ』
直樹が立ち上がり、玄関から出る。
『それじゃあ雪、いってくるから。今日は早めに帰れるよ』
『はい、兄さん。いってらっしゃい』
そして直樹の運転する車に乗り込み。自宅を後にした。