表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

05 : 再開と魔法



 オズワルドとアーサーが話している頃。話題の人物として話にのぼっていた件の彼女(シャロン)は全速力で走っていた。


「いやああああ!」

「は、歯があるんだけどあれ!?」


 後ろからは男女入り混じった叫ぶ声が聞こえる。道中彼女が見つけた、魔法書の被害者である学院の生徒達だった。その数、約10名前後。

 更にその後ろからは、ひと一人を丸呑みに出来そうなサイズの食虫植物が後を追ってきていた。


「食べようとしていますね」

「いやあの冷静に分析していないで助けてくださーい!」


 考察を続けるシャロンに、共に走っている1人がつっ込んだ。

 それもそうか、と納得したシャロンは立ち止まった。その横を学院の生徒達が追い抜いていく。

 手帳を花へと翳し、シャロンは告げる。その声は、高らかにして低音。


「第五席シャロン・オーリオウルの名において命じる。即停止、解除せよ」


 淡い光が辺りを満たし、そして消える頃には追ってきていた食虫植物は消えて花弁が舞うのみだった。

 落ちていく花弁を容赦なく踏みつけながら、シャロンは辺りを見渡し――、そしてまた走り出した。


「走ってください」


 身を寄せ合いながら佇んでいた学院の生徒達は、走ってくるシャロンとその後ろから更に追ってきた食虫植物を見つけて、無言で走り出した。


「どうにか出来ないんですか!?」

「数が多すぎます」


 シャロンの言葉に1人が立ち止まり、手を食虫植物へと翳した。


「『炎よ!』」


 炎が地面を舐めるように走り、食虫植物へとぶつかった。そのまま燃えていく植物に周囲は喝采を上げるが、次の瞬間には更に後からやってきた大量の植物を見て逃げ出した。


 消しても後から後からやってくる食虫植物に、消すよりも逃げる方がいいと判断した彼等は一本しかない通路を走り続けた。

 真っ直ぐと前をひたすらに走り続けて、曲がり角があれば曲がった。そうして走り続けてしばらくした頃、一体何度目かの曲がり角を曲がった先の道が急に途切れていた。

 そこから先は穴が開いており、それに気付いた先頭の者が立ち止まったものの、後から続いている者はそれに気付かずに前の者へとぶつかった。結果、先頭にいた者は急に押された事でふらつき、穴へと落ちた。


「え……っ!?」


 落とした形となった者が青褪めるが、次の瞬間には彼等もまた後ろの者に押し出される形で穴へと落ちていった。

 続々と人が落ちていく中、最後尾にいたシャロンも彼等が落ちていった事を知ると端まで走っていき、地面を蹴り上げるとそのまま宙へと躍り出た。

 そうなれば自然と重力に従いシャロンの体は下へと落ちていく。風の切り裂くような音が彼女の耳元で鳴り響き、髪が風の流れに従い逆立った。


 緑色の壁や、その中で彼女と同じように下へと落ちていく学院の生徒達の悲壮な顔や恐慌状態に陥っている姿を視界の隅に入れながら、段々と迫ってきた地面へと掌を向ける。

 だが次の瞬間には呆気にとられた表情となった。


 彼女等の落ちる先、下から色とりどりの光の洪水が襲い掛かってきた。

 淡い水色の光がシャロンの隣で煌めき、青い粒子、白い粒子となりぶつかっては弾かれ消えていく。桃色の光がシャロンの頬を撫で、赤い光が通り過ぎる。黄金の光が環を描き、弾け散った。

 これは魔法だとシャロンは気付く。ならば、一体誰の魔法でどんな作用を起こすのか思考を巡らせたところで落下速度はゆるやかな速度へと変わった。


 ゆうるり、ゆるり。ゆらり。ふわり。

 落ちて。緩やかに落ちていく。


 シャロンと同様に落下速度が緩んだ周囲が無事に地面へと着地できたところまでを見届け、安堵していたシャロンを誰かが抱きとめる。


「良かった。無事だったんだね」


 聞き覚えのある声にシャロンが上へと顔を上げれば、見覚えのある美貌を持った青年の顔がそこにはあった。


「……グラズヘイムさん」

「オズワルドでいいのに」


 苦笑した顔も麗しい、そこにはシャロンと共に乗り込んできたオズワルドがいた。

 だがそこには触れず、シャロンは疑問を投げかける。


「この魔法は貴方が?」

「そうだよ」

「助かりました。ありがとうございます」

「君のためならいくらでも」


 抱きかかえられながらも礼をしたシャロンに、オズワルドは目を細める。その熱の篭った視線に、思わずシャロンは視線を逸らした。


「……あの、それ止めてくれませんか?」

「何をだい?」

「……もういいです」


 先程も同じようなやり取りをしたとシャロンは唸った。そして先程と同じく、やはり彼女から折れた。

 けれど、あの視線を前にして平然と対応できる人がいるのなら見せて欲しいとやけっぱちになりながらシャロンは心の中で叫んだ。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ