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第1話 開始・死神の物語⑥

 噴水広場に到着したわたしは辺りをくまなく探った後、隼の石像をじっと見ていた。

 今にも動きだし襲いかかってきそうな威圧感。

 こんな時間帯だからか、精密に造られているからか、それとも他にあるのか。

 わたしには判らないけれど、確実に言える事が一つだけある。

 ここには、何もなかった。

 落胆する。

 魔術の要因となるモノがただ一つとしてなかったことにではない。魔術師がいるかもしれないから、という曖昧な理由でろくに準備もせずに先走ってしまったその愚かさに。


『計画を立てる前に行動するな。たとえそれで何とかなったとしても得る物は何一つない。計画を立ててから行動しろ。魔術の世界で死なないための基本事項だ。忘れるなよ』


 そんなアーネストさんの言葉を思い出し大きな溜め息を吐く。


「――帰ろ……」


 そう囁き、寮への道に引き返す。

 夕日は沈み始め、暗闇に包まれようとしている。

 早く帰らなければ先に帰ってもらった二人を心配させてしまうだろう。


 ――カツカツカツ。


 軽く走りはするも、時間がやけに長く感じる。

 いつも喋りながら帰るので一人だと余計にそう感じるのかもしれない。敷地が広いからといっても、できることなら近くに作ってほしかったものだ。

 何気無く辺りを見渡す。

 人通りのない道。夕暮れの静けさ。そのせいで樹が風によって揺れるざわざわとした音、そして自分の足が放つ音がいつも以上によく聞こえる。

 人の気配は感じられなかった。

 寮までの道程がいつも以上に長く感じた。

 ひどく不気味に感じた。

 ――その時。

 背筋がぶるりと震えた。

 一瞬にして空気が変わったのだ。


「――っ!」


 何だ、この感覚は?

 寒いからだとかそういうものじゃなく、何かがわたしの身体を貫くような。

 その場で立ち止まる。何か違和感がする。誰かに見られているような、そんな違和感。

 注意をはらい振り返る。続けて周りをよく見渡す。

 誰もいなかった。怪しい人は誰もいなかった。

 怪しいモノはなにもなかった。ただの勘違いだろうか。

 ――違う。断じて否。

 それはわたしを殺すような視線。殺意。殺気。それが勘違いなわけがない。

 見えない敵に神経を研ぎ澄ます。

 鞄の中に手を入れ、そのまま仕込んでいる武器を取り出す準備を開始する。

 殺気の主はわたしの周りをぐるぐると旋回しているようだった。

 それはまるで目に見えない猛獣に囲まれているような感覚。

 どこから攻撃が飛んできても対応できるように警戒するだけで精一杯だった。

 見えない敵を相手にするのは得意じゃない。

 それにしても、このような状況は初めてだ。

 以前に不意打ちを受けたことはあったが、このように殺す瞬間以外に常に殺気を放ち続けることはなかった。

 仮に不意打ちによる攻撃が目的ならばこのような状況はまずあり得ない。自分は今から攻撃しますよと言っているようなものだから。

 ならば何故このようなことをするのか。

 今考えられることはわたしの神経を削っていき、集中力、体力が切れたところで狩る、ということくらいか。

 ……狩る? ……死神? まさか。

 それは今は置いとくとして、体力切れを待っているだけならばまだ何とかなったかもしれない。それだけなら。


「はは、どうなってるの」


 不意に声に出てしまう。

 一つだと思っていた殺気の主が分裂した、ように感じた。

 つまり敵が増えたのだ。

 それがわたしの勘違いなのか、それとも複数の敵がわたしを狙っているのか。

 できれは前者であってほしい。

 だがそう思えば次は殺気が合体、纏まった。

 そして分裂、続けてさらに分裂。

 もう理解できなかった。

 分裂しては纏まって、分裂しては纏まって。

 消えては現れ、現れては消え。

 殺気はわたしの周りをぐるぐると渦巻く。

 これは危ない状況かもしれない。

 覚悟を決めてこちらから仕掛けるか、それとも全力で逃走するか。

 そう思考した瞬間だった。

 突然空中で何かが輝きを放った。


「――ッ!」


 目をやると、そこから棒状の何かがプロペラのように回転して飛んでくるの確認した。もし直撃すれば掠り傷ではすまないだろう。

 しかし直撃すれば、の話だ。

 瞬時に反応し避け、同時にその物体を叩き落とす。

 鞄の中にから取り出した武器、短剣を用いて。

 叩きつけられたそれは「からん」と金属音を響かせる。

 振り返り、それが何なのか確認しようとする。

 しかし、確認する間も無くそれは黒い煙に包まれ、しだいに消えてしまった。

 意識を相手に戻すも殺気による圧迫感がなくなっていくことに気がつく。

 今までわたしを狩ろうとしていた殺気もその者の気配も次第に薄れていく。

 空気が元に戻ってゆく。

 まるでもうおまえには用がない、と言うかのようにその気配は完全に失せた。

 相手が何者だったのか、何が目的だったのか、全く検討がつかない。

 その手に強く握りしめた武器を鞄に戻す。

 身体中の力が抜け、意味もなく空を見上げる。

 妖しい夕焼けは、気が付けば真っ暗な闇の渦に変わっていた。

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