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第5話 一時の空白な心②

 そうしてニコルちゃんに連れられて三年生の教室があるところまで来ていた。

 同じ校舎の中のはずなのに雰囲気が全く違う。

 落ち着きがあるというか、大人びているというか。

 ああ、人って一年で変わるものなんだな。そう実感させられる。


「さあ、ティア。行ってこい」


 と背中を押される。


「え、ニコルちゃんは?」

「あたしはここで待ってるよ。頑張ってきな」


 そう言って手を振り物影に隠れるニコルちゃん。

 この薄情者め。いつか仕返ししてやる。嘘だけど。

 と考えていると、後ろから声をかけられた。


「あれ? 君って二年生の有名人だよね。たしかパーシスさんだったかな。どうしたの、こんなところで」


 振り返ればそこにいたのはとてもやさしそうな女の人だった。

 有名人って何? と一瞬考えたが答えは簡単だった。

 これも過去の過ちの影響か。


「あ、あの。人探しをしてまして」

「人探し? 名前は?」

「ロイド・エルケンスという男の人なんですが……」


 と言葉にした瞬間、女子生徒は急に笑顔になった。……何故?


「ああ、男か。男ね。ふふふ、ちょっと待っててね」


 そう言って近くの男子生徒を呼び止めた。


「ねえ、ロイド・エルケンスって人知ってる?」

「いや、知らねえな。そんな奴いたか? 別の学科のやつなら知ってるかもしれないし訊いてこようか?」

「ええ。じゃあそうしてちょうだい」

「わかった。一分ほど待ってろ」


 そう言うとその男子生徒は踵を返して色々な人に声をかけて回っていった。

 それに応じて段々とざわつき始める。

 先程の静かな雰囲気は一瞬にして崩れ去った。


「あの、すみません」


 目の前の女子生徒に訊ねる。


「何かな?」

「そこまで大事にしなくても良かったのでは……」

「でもすぐに解決するならいいんじゃないかな?」

「…………そ、そうですか」


 もうわたしにはどうすることもできなかった。

 上級生は恐ろしかった。

 丁度一分が経ったころ、さっきの男子生徒が戻ってきた。


「どうだった?」と女子生徒が訊く。すると男子生徒は「いなかった」と答えた。

「え? いないってどういうことですか?」


 わたしは男子生徒に訊ねる。

 知っている人がいなかったのか。それともロイドくんが今ここにいなかったのか。しかし、そのどちらでもない答えが男子生徒の口から返ってきた。


「その名前の人がいなかったってことだ。確認したいんだが、そのロイドって奴は三年生なのか」

「あ、えっと…………」


 そう訊かれて初めて気がついた。無意識の内にロイドくんは年上の人だと勝手に決めつけていたことを。

 あの落ち着いた口調や振る舞いから、そう思い込んでも仕方なかったかもしれない。敬語を使うつもりは全くなかったけど。


「すいません。それは分かってないんです。分かるのは名前だけで。たぶんこの学園の生徒だとは思うんですけど」

「手当たり次第に探してたってことか。とりあえず報告だ。まずさっき言ったようにその名前の三年生を知っている人は一人もいなかった。だから、ついでに後輩関係も訊いてみたがそれも同じ。もし君の言う通りこの学園の生徒なら一年か二年の部活に所属してない人だろうな」

「それって確かなんですか?」


 その質問に答えたのは女子生徒の方だった。


「それは確かね。この人の情報網はすごいんだから」と男子生徒の胸を軽く叩いた。

「そんなことはない。ただ知り合いが多いだけだ」と否定した。

 わたしは二人にありがとうございました、と頭を下げて、そして逃げるように帰っていった。


「どうだった?」


 と訊いてきたのは物影に隠れていたニコルちゃんだ。


「それがさ――」


 と、先輩方との会話の内容を話した。


「おまえ、相手が年上かどうかくらい聞いとけよ」

「本当にその通りだったよ」


 心を決めて呼び出そうとはしたものの結局あてが外れてしまった。

 ということはロイドくんは年下だったってこと?

 あれで?

 考えたくなかった。

 このあとわたしたちは一年の教室に向かった。

 今度はわたしの代わりにニコルちゃんが訊きにいってくれた。

 部活の後輩らしき人を数人呼び出してロイドくんについて訊いてくれて、その間わたしは物影に隠れていた。



 数分後、戻ってきたニコルちゃんが報告をしてくれる。内容はこうだ。


「ロイド・エルケンスって人はいなかったぞ」


 そんな馬鹿な、と叫びたくなった。

 だっておかしいでしょ。

 今までずっとこの学園で一緒にいたんだから。

 しっかり制服も着ていたし。


「偽名でも使ってたんじゃないのか?」


 とニコルちゃんが冗談半分に言う。

 でも、もしかしたらそれはあるかもしれない。

 ロイドくんにとってわたしは得体の知れない能力者だったのだ。初対面の時に警戒して名前を隠すくらいのことはするかもしれない。そして、それを言い出すことなく今に至ったのだとすれば。


「それだったら名前は全く頼りにならないね」


 わたしも冗談混じりに言ったところで次の授業の予鈴が鳴った。


「ニコルちゃん。ありがとう。後はわたし一人で探してみるよ。顔を頼りに」

「そっか、それじゃああたしにできることはもう無いってことになるのか。それじゃあ後はがんばれよ」

「うん」


 それからわたしたちは次の授業の教室に向かう。

 授業終わってからの放課後、わたしがやることはすでにこの時点で決めていた。

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