表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/33

第4話 旧校舎・暗闇の大講堂⑥

 ティア、ロイドの二人は同時に死神へ向かって一直線に駆け抜ける。

 ティアは肩にかけた鞄の口、その奥にある隔離空間から武器を取り出す。以前死神かもしれない何かと対峙した時に用いたものと同じ短剣だ。

 今度はそれを二本取り出し両手に持つ。

 ロイドも足を止めることなく両手に炎を纏わせて死神に接近する。


「あの鎌にだけは気をつけろ。当たればさっきみたいに一瞬で意識を持っていかれるぞ」


 ロイドはティアに向かって叫ぶ。


「分かったよ、ロイドくん!」


 ティアもロイドに向かって叫び、前に出て先陣を切り死神に攻撃をしかける。

 まずは死神が鎌を持っていない腕の方、左側に回り込み短剣による高速の一閃を放つ。

 しかしティアの攻撃は難なく鎌で防がれる。

 その防御行為はまるで鎌を持つ腕だけがひとりでに動いたように見えた。

 短剣で押し返そうとするも鎌はびくともせず、そのまま膠着状態が続く。

 直後、死神はティアの方に首だけを振り向かせ、空洞の眼から不気味な視線を放つ。間近で見た死神は更に怪しく、そして恐ろしい。すぐにでも死神との距離をとるべく行動する。

 鎌から短剣を離し、真後ろに跳躍しようとした瞬間だった。


「そのまま注意を引き付けろ!」


 ロイドが叫んだ。

 ロイドはティアの反対側、死神の右側に回り込んでいた。死神はいまだティアに狙いをさだめているため、ロイドにとって絶好の攻撃チャンスだった。

 ティアは無言で承諾し、手に持つ短剣のうち一本を死神の頭部にめがけて投擲する。

 死神はそれをするりと躱すと、再びティアを切り裂こうと鎌を振りかざす。

 ここでティアは目にした。

 先ほど投擲した短剣をロイドが掴み、その刀身に炎を纏わせた瞬間を。

 その炎は短剣を中心に広範囲に広がる。ロイドは死神に回避させるつもりはなかった。

 あと数秒も経たないうちにこの広場には炎の波による猛威が振るわれることなる。

 すぐ近くにティアがいるというのになんてバカな行為をするのか、と思われるだろう。しかしこれもティアを信じての行為だったのだ。


「ティア、これくらい防いでくれよ」

「もちろん。どうってことないよ」


 そうティアが応えると、隔離空間からあるものを取り出す。

 この広範囲攻撃を防ぎ得る防具。ティアの身の丈以上でその身体を覆い隠すほど大きな銀色の盾が出現した。

 それは魔力を弾く対魔術装甲であり、五月に誕生日プレゼントとして半ば無理矢理渡されたアーネスト作の礼装だ。

 最小で掌サイズまで縮めることができ、出し入れできる物体の大きさに制限があるというティアの能力の弱点対策になっている。

 ただしこの盾自体がまだ試作段階のため、ほぼ全ての魔術を防げる代わりに一度使用するとアーネストにメンテナンスしてもらうまで使えないという欠点があった。

 直後、炎の波はティアもろとも死神を飲み込み、辺り一面を炎の海へと変貌させる。



 ロイドは確かに死神が炎に直撃した瞬間を目にした。ティアも同様に直撃したが、盾が崩れていないところを見るとおそらく無事だろう。

 だが、これで終わりではないことをロイドは十分認識している。この程度で死神を倒せるのならば今まで苦労はしてこなかった。

 ロイドは警戒する。

 すると思った通りだった。

 死神はゆらりと炎の海から浮上する。どうやら死神は鎌を高速回転させ炎の波を防いでいたらしい。死神は再び鎌を振り上げ、標的をロイドへ代える。

 ロイドもそれに応えるように短剣を投げ捨て、両腕に炎を纏わせる。


「来い、死神。ここでおまえを止めてやる!」


 その言葉を合図に、ロイドと死神は同時に地を駆けた。



 ティアはその様子を巨大な盾の影から覗いていた。もちろん死神が恐くなって隠れているわけではない。

 ロイドと死神の攻防。火花を散らしながら繰り広げられるそれは、まさに死闘と言えた。

 そんな状況でロイドの助けに入らない理由はただひとつ。死神の隙を見計らい、そこを叩くためだ。

 しかし、それで本当に大丈夫なのか不安になるのもまた事実。

 なにせこれは全く打ち合わせのない思いつきでの行動だったからだ。

 共に闘う相棒を信じていると言えば聞こえはいいが、助けに入らないのはやはり酷なものだろう。

 しかしティアは感じ取っていた。ロイドは助けなど求めていないことを。

 俺は一人で闘える、そうロイドの眼がティアに伝えていた、ような気がしたのだ。

 だから、ティアは息を潜める。

 暗闇に潜む暗殺者のように。



 ロイドはティアが何をしようとしているのかすぐに理解した。盾の影から一瞬見えたティアの眼がそう語っている、ように読み取れたからだ。

 ただそれで死神を殺せるのかと訊かれれば、何も答えることができない。

 実際に攻撃が直撃した試しすらないため、傷つけることが可能かどうかも不明なままだ。

 しかし不可能だと決まったわけでもない。だからロイドはティアの意志に答えることが今できる最善だと判断し行動する。

 数分間続く死神との攻防の果て、ロイドはある位置まで死神を誘き寄せた。


(この位置まで誘導すれば問題ないだろう。ここから先はティア次第だな)


 そう思考した瞬間、ロイドは攻撃の手を止め防御に徹する。

 今までの死神との攻防の中でロイドは死神の行動パターンを二つ発見した。

 一つは何があろうと死神は鎌を手放さないこと。そしてもう一つは鎌が縦に降り下ろされる時のみ他の攻撃と比べて見切りやすい単調な動きになること。

 ロイドは確実性を上げるためにあることを試みることにした。

 死神の猛攻は止まることを知らない。

 今のロイドの不安は自分の体力がそれまで続くかどうかだった。

 そして、ついに鎌が縦に降り下ろされる。

 ロイドは見逃さない。

 目でその動きを捉える。

 しかしそれを避けることはしなかった。

 それに対して反撃することもしなかった。

 ロイドがとった行動。

 それは炎を纏いし両手でその刃を受け止めることだったのだ。

 炎はさらに勢いを増しロイドの手を鎌の刃から守る。鎌はがっちりと固定され、死神がどうあがこうともその手から離れることはない。

 その瞬間のそれぞれの立ち位置。ロイド、死神、ティア、はぴったり直線上にある。更に死神はティアに対して背を向けている。ロイドが鎌を放さない限り、この位置関係が崩れることはない。

 これがロイドの思惑。今まさに、これ以上ない機会と言えた。


「行け、今だ!」


 瞬間、ティアの姿を覆い隠していた盾が捻れるように隔離空間に吸い込まれていく。そして炎が二本の短剣によって真っ二つに引き裂かれる。


「言われなくても!」


 叫びと共に地を大きく蹴り、強く絞られた弓から放たれる矢のように死神に飛びかかる。

 死神の後ろをとったティア。

 短剣による一閃は確実に死神の頭部を捉えている。

 唯一の妨げとなっていた鎌はロイドによりその動きを封じられている。

 ティアとロイドの連係は初めてにしては見事だとも言える出来栄えだった。

 あと数センチの距離。あと数秒の時間。

 二人の勝利は目前だった。

 しかし――


「「――え!?」」


 驚愕の声。それはどちらか一方でなく、二人同時に発したものだった。

 ティアの目の前にあったはずの死神の頭部が。ロイドが掴んでいたはずの鎌が。気が付いた時には姿を消していたのだ。

 そして間髪入れずに次の段階に移る。


(なんでわたしの後ろに死神が!?)

(こんなこと、ありかよ!?)


 そう。消えたと思われた死神は瞬時にティアの後ろに移動していたのだ。

 ティアは空中に位置しているため回避行動をとることができない。さらに後ろをとられているため防御することもできずにいる。言わば絶体絶命の状態だった。

 死神の鎌による一撃が容赦なくティアに襲いかかる。

 もうだめだ、とティアは目を瞑る。

 もうどうにもできない、と諦めかけた。

 その時だった。


「ティア!!」


 なんとティアと死神の間にロイドが割り込んだのだ。自分の身も顧みずロイドは大きく腕を広げてティアを庇おうとする。

 そして――

 地に落ちたティアの目には血を流して倒れ伏すロイドが映っていた。

 死神の姿は、そして気配は、跡形もなく消え去っていた。

 今夜の死神による狩りはこれで終わったようだった。

 あまりにも呆気ない結末。

 ティアとロイドは文字通り、敗北した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ