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第4話 旧校舎・暗闇の大講堂④

 わたしの説明(それに雑談を含む)を終えた頃に西側の探索も終った。

 東側と同じく特に変わったものは見られなかった。

 再び昇降口まで戻りでその後の方針をたてる。

 話し合いの結果わたしは西側を、ロイドくんは東側を担当することとなった。

 その後ロイドくんと別れてから一時間ほどかけて二階、三階、四階と一通り教室をまわる。しかし、魔石であったり儀式場であったりそういう物騒なモノは見つからなかった。


「四階まで来てみたけど、何もないじゃん。ロイドくんの方はどうなんだろう」


 旧校舎四階の一番奥の教室で一人嘆いていた。

 思い返してみれば、埃を踏みつけてできた足跡すらわたしたちのもの以外無かったはず。であればここ最近、人の出入りがなかったということになるのではなかろうか。


「もう戻ろう……」


 と囁く。しかし見落としは避けたかった。もう一度見てまわろうかと考え教室を出ようとする。その瞬間、不意にそれよりも優先して行かなくてはならない場所を思い出した。

 ここに来て一番最初に確かめたいと思った場所。

 一階昇降口の奥にある施錠された扉の先。

 まだそこが残っている。

 扉の先には何があるのだろう、と出ようとしていた教室にもう一度入り窓際まで歩いていく。

 わたしたちが歩いてきた方向とは逆の方向。窓から見下ろした先には旧校舎までの道と同じような草の生い茂ったタイル張りの道があった。

 その道を目で辿ろうとするも、すぐに木々の集団で隠れてしまった。しかし、だからと言ってその先に何があるのか分からなくなったわけではない。

 森と言ってもいいようなその場所のなかに一つ、大きな建物の屋根が見えた。

 あれは何だろう。教会だろうか。もしかしたら体育館かもしれない。旧校舎から一直線に伸びたタイル張りの道はおそらくあの建物の入口まで繋がっているのだろう。

 早速その場所に行くために一階まで降りることにした。ロイドくんを待った方がいいのかもしれないが、すぐに戻ってくれば大丈夫だろう。

 しかしどうする? あの扉の鍵は当然持ってないし、ある場所も知らない。

 では、壊そうか? いやいや、たとえ今にも壊れそうな建物だとしても自分から壊すのはやめたほうがいい。

 さて、どうしたものか……

 ――と真剣に考えてしまったが、結局のところ考える必要すらなかった。考えるだけ無駄なことだった。

 鍵がないなら使わなければいい。扉をぬけて進まなければならない制限なんてどこにもない。

 一階まで降りると施錠された扉へは向かわずに、扉の隣の部屋、生徒会室と札の掛けられた教室に入った。そして――


「窓から出ればいいじゃん」


 部屋の奥へと歩き、窓の鍵を開けスライドさせる。

 そして飛び越えた。

 さっきから普段なら注意されるようなことばかりしている気もする。いつか一気にその報いが襲いかかってきそうで怖くなってきた。



 足下に気をつけて木々に覆われた薄暗いタイルの道を歩いていくと、そこにはやはり大きな建物が存在していた。

 それを視界に捉えた瞬間だった。

 何か威圧感のようなモノを感じた。

 それは建物に近づくにつれて強くなっていく。

 目にしてはいなくても、確かにそこには何かがあると感じとれるくらい。

 ドク、ドク、ドク。

 次第に心臓の動きが早くなる。

 息遣いが荒くなる。

 ついには目眩がして気分が悪くなってしまった。

 ――ダメだ、ダメだ。

 落ち着け、わたし。まだここに何かがあると決まったわけじゃない。

 建物の大きな扉の前で一度立ち止まり、自分の頬を両手で軽くぱしっと叩く。


「よし!」


 深呼吸をして、扉の取っ手を引こうとした。


「――え?」


 突然起きた奇妙な現象に息を呑む。

 どういうことか扉が独りでに動きだしたのだ。それは錆びついているのか、きいきいと嫌な音をたてながら開いていく。そして――


「あれ、おまえも来たのか」


 中から出てきたのはなんとロイドくんだった。

 彼の姿を捉えた瞬間、わたしを取り巻いてた威圧感が消え去った。


「やけに息遣いが荒いな。走ってきたのか?」

「あ、うん。走ってきたんだ」


 嘘だった。ここに近づくことにちょっとした恐怖を感じたことが原因だなんて恥ずかしくて言えない。


「そんなことより、何でロイドくんがこんなところにいるの?」

「時間が余ったからだ。俺が校舎の東側の調査を終えた時、おまえはまだ三階の調査中みたいだったからな。おまえが終わるまで暇だったんで調査中に見つけたこの建物を調べておこうと思ったんだ」


 ロイドくんが四階までの調査を終えた時にわたしはまだ三階だった?

 わたしってそんなに調べるのが遅かったの?

 ロイドくんの二倍は時間がかかってるってことになるじゃない。できれば手伝ってほしかったかも。


「わたしを手伝おうとか思わなかったわけ?」

「そう思いもしたんだけど、おまえにもプライドってものがあるかなって思って。だからむやみに手伝うのは良くないかなって思ったんだんだよ」


 そうなんだ。一応ロイドくんはわたしのことを考えて行動してくれたわけか。

 それでも声をかけるくらいはしてほしかったかも。そういうところにはあまりプライド持ってないから。

 追求したい気持ちもあるけれど、今は置いておこう。ロイドくんにもきっと考えがあってのことだろう。言葉通りの意味に捉えてはいけないこともあるだろうから。


「……うん。理由は分かった。それで?」


 ロイドくんは首を傾げて「それで?」とわたしの言葉を復唱する。


「それで、だよ。ここで何か見つけた? ほら、儀式場とか魔石とか普通は無いはずのものがあったりとかしなかった?」


 そのわたしの問にロイドくんは首を横に振る。


「いいや、そんなものは何も。おまえの方はどうだった?」

「わたしの方も何も」


 そう言ってお互いにがくっと肩を落とす。

 とりあえず念のためにと思って扉を閉めようとするロイドくんを止めて中の暗闇を懐中電灯で照らした。


「何か気になることがあるのか? 何なら一緒に見てみるか」


 そうロイドくんに提案されるも「いや、いい」と拒否して懐中電灯の明かりを消した。


「今日はこの旧校舎付近の森をまわってから帰ろ」

「――そうだな。そうするか」


 そうして、今度こそ謎の建物の扉は完全に閉ざされた。

 見落としはないだろう。しっかり確認したはずだから。

 ここでも何も成果が得られなかったのは残念だったけれど、もし無いのなら無いでそれを確認できただけ良かったと考えればいい。



          ◇



 その後、わたしの用意した軍手を手にして旧校舎の敷地を後にすることにした。

 来た時と同じようにまずロイドくんから旧校舎の門をよじ登っていく。そして躊躇いなく飛び降りたロイドくん。続いてわたしが門をよじ登ろとして上を見上げる。


「ねえ、ロイドくん。今何時か分かる?」

「え? ああ、ちょっと待ってくれ」


 汚れた軍手を外してから袖をまくり腕時計を確認するロイドくん。


「今は……三時半ごろだな。どうした? 急ぎの用でもあるのか?」

「ううん、何にも。ただ友達が部活から帰ってくるまでには寮に帰っておきたいなって思って」


 そう言って門の格子を掴む。その瞬間。



『――――、――』



「――!?」


 何か違和感を感じた。

 わたしの真後ろから突然現れた妖しい気配。邪悪な禍々しいそれ。

 気付き振り向こうとするより先にロイドくんがこちらを見て叫んだ。


「ティア! 後ろだ、避けろ!」


 言われるがままに横に跳んで後ろの何かから避けようとする。

 しかし遅かった。背中に刃物で斬られたような強烈な痛みが走り、意識が朦朧とする。

 意識を失う前に見た風景。それは蒼く染まった晴天とわたしを抱えて逃げるように走るロイドくんの姿だけだった。

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