第4話 旧校舎・暗闇の大講堂②
時は進んで時刻は午後一時過ぎ。
ロイドくんが持ってきてくれた自作のお弁当(めちゃくちゃ美味しい。特にチーズ入りハンバーグが良い)を一緒に食べた後、わたしたちはさっそく旧校舎へ向かうことにした。
実のところ、わたしは魔術について別段詳しいわけではない。しかし、死神、精霊の類いを造り出すには何かしらの礼装が必需品となることくらいは以前から知っていた。
しかし、ロイドくんは今回の事件はそれだけにとどまらないはずだと予測していた。
もし大規模な魔術が行われるとすれば、礼装に加えて更に儀式場が必要なはず。それを考慮に入れて礼装があの魔石とする。
なら儀式場は? ということからだ。ロイドくんが最初に旧校舎を探ろうとしたのもそのような考えからのようだった。
わたしと出会ってから旧校舎に一度も行かなかったのは時間の関係と、まだわたしが信用できる人間か判断できなかったところもあったようだ。
そうと決まれば、とパジャマから制服に着替える。ロイドくんには先に外に出ておいてもらった。
いくら休日だからといっても学園内を歩き回る時は制服でなければならない。そういう決まりなのである。ルールは守らなければ。
肩に掛ける小さな鞄を装備したわたしは戸締まりを確認してから部屋の鍵を掛け出発した。
寮から出るとロイドくんが木の影で隠れるようにして待っていたのを見つけた。
確かに女子寮の近くに男子がいては不味い。ロイドくんは魔力を感知できるか確かめたのだと言っているが、これは彼なりの配慮をしてくれたのだと思っておく。
旧校舎まではゆっくり二人並んで歩くことになった。
ロイドくんはわたしの背中が気になったのか中身が空っぽのように潰れて背中に密着している鞄をまじまじと見つめる。が、それもどうでもよくなったのか適当な雑談を話し始める。
中身が気になったのだろうか。しかし、たとえ訊かれても答えるつもりは全くなかった。わたしはその雑談に乗り、のんびりとした気分で歩いた。
旧校舎の入口は今使われている校舎の裏側、もう少し詳しく言うと現校舎の北東側の森林を抜けた先にある。なので寮から直接寄り道せずに向かう場合、現校舎や体育館などの近くを通ることになる。
体育館までたどり着き、横を通り抜けようと近づいていった時だった。
ボールがバウンドする音、複数のシューズが床をきゅっと擦る音、そして大きな声援が聞こえてきた。
体育館の壁の下にある複数の小窓のうちの一つからこっそり覗いてみる。
そこではバスケットボールの部員たちが男子女子共に全力で走り、汗を流し、一生懸命練習をしていた。
その中にはニコルちゃんの姿もあった。わたしはバスケのルールはよくわからないけどニコルちゃんは先輩たちにも負けないくらい凄いプレイをしているように見えた。
頑張れ、とわたしは心の中で呟くと待たせていたロイドくんにごめん、と言って足を再び動かした。
◇
更に数分後、校舎裏の森林に囲まれたタイル張りの道を歩いていた。長い間整備されていないのだろう。タイルの上に土が覆いかぶさり、その隙間からは雑草が生い茂っている。
寮から計十五分ほど歩いたところで森林の出口が見えた。旧校舎の門までたどり着いたのだ。
門には錠が掛かっており、立入禁止と書かれた板が掛けられていた。しかし、そんなこと当然の如く無視する。
「どうやって入る? 錠を切ってしまって……だめか。元に戻せない」
バレることは無いだろうけど万が一ってこともある。不用意に壊すことはやはり躊躇われた。
「じゃあ、よじ登るか」
「え?」
「少し不恰好だが、誰かが見ているわけでもないし気にする必要はないだろう」
よじ登る、か。門は身長の倍以上の高さはありそうだが、わたしにとっては御茶の子さいさいだ。ロイドくんにとってもなんの苦労もないだろう。
その提案に承諾すると先にロイドくんが門の格子を掴み登っていく。そして向こう側に着地して危険が無いことを確認する。
大丈夫だという合図を受けると次はわたしの番だった。格子を掴み、よじ登ろうとして思いとどまる。
「あの、ロイドくん」
「なんだ?」
「できればあっちを向いていてほしいっていうか、その――」
ロイドくんはその言葉に疑問を持つようにわたしを見る。そして察してくれたのか「ああ、そうか」と言った。
「そう言えばスカートだったな」
「うん。ごめんね」
「いいよ。こっちに着たら言ってくれ」
そして門の上まで登っていく。一番上に到達した時、ロイドくんと同じように飛び降りようとしたがすぐに思い直した。
まさかとは思うが着地時に滑って転ぶなんてしたらそれこそ恥ずかしものはない。細心の注意をはらいながらゆっくりと降りることにした。
そしてやっと無事に門を乗り越えることに成功。
何ていうか、手袋をはめるべきだった。
汚れと錆が手についてべちゃべちゃになってしまった。
持ってきていたハンカチで手を拭う。
「あ、ロイドくん。もういいよ」
「ああ、……っておまえもか」
見ればロイドくんもわたしと同じようにハンカチで手を拭っていた。
そのような全く同じ行動をしていたことにクスッと微笑するわたしたちだった。




