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第3話 胎動・獅子の咆哮①

 まだ未熟だったわたしが一番恐れていたこと。それは能力の暴発で他人に怪我を負わせてしまうことだった。

 ある日のこと。我に返った時、目の前に広がる光景は血の海だった。

 赤黒い液体がそこら中に飛び散っていた。

 嫌な臭いが鼻を刺激した。

 喉の奥から何かが出てきそうな感覚がした。

 口を押さえ必死に止めようとする。

 そして、目の前で倒れていたぼろぼろの何か。

 それは紛れもなく、わたしにとってとても大切な人だった。

 この出来事以降、人と関わることが恐ろしくなってしまった。

 いつ、誰を傷つけてしまうか分からないから。

 どこで、人を殺してしまうか分からないから。



          ◇



 次の日。六月十七日の水曜日。

 昼休みにいつもの三人で食事をしたあと、別れてから急いで図書館に向かった。もちろん昨日の話題にでた星座について調べるためだ。

 受付で生徒証明書を見せてから中に入る。


「星座コーナー、星座コーナー……あれ? 宇宙コーナーだっけ?」


 と、ぶつぶつ呟きながら目当ての本を探した。

 数分後、運がよかったのかそれらしき図鑑を発見する。その名を『星座図鑑』。

 タイトルがそのまますぎて小さい子が読む本かと思ったけれど実際はそれなりに詳しい図鑑みたいだった。

 近くの椅子に腰をおろし、本棚から持ってきた図鑑をテーブルの上に置く。そしてポケットから折り畳んだ紙切れを取り出した。

 本の横にそれを広げる。内容は昨日ロイドくんが教えてくれた被害者の襲われた位置と魔石の位置についてだ。

 ただしロイドくんが描いた絵ではない。あれでは一瞬見られただけでもどんな内容なのか読み取られてしまうからだ。

 そこでさらに簡略化した絵を描いて持ってきた。円を描いてその中に星印を六つだけ描き入れた物。星は魔石が落ちていた位置だ。端からみると意味不明な落書きにしか見えないはず。

 本のページを次々とめくっていき、地図も同時に確認して似た形がないかを見ていく。

 しかし、なかなか似た形の星座が見あたらない。星座ではないのかと言ってはみたもののこうして図鑑を見てみると次第に不安が募ってくる。


「やっぱり気のせいだったのかな……」


 と諦めかけたところで後ろから聞き覚えのある声がした。


「ちっ、男じゃなかったのか」


 後ろに振り返る。そこにいたのはレンちゃんとニコルちゃんだった。二人ともつまらなさそうな顔をしている。さっきの声はニコルちゃんの方だろう。間違いなく。


「――二人とも何してるの?」


 と言い二人を横目にして続ける。


「男ってどういう意味さ?」


 すると二人ともふふ、とにやついた表情になる。まるで双子の姉妹のようにさっきから二人の表情の変化が一致している。

 あのね、と切り出したのがレンちゃんだった。


「ついさっき、昨日の昼休みにティアちゃんが知らない男の人と一緒に歩いていたのを見たっていう噂を聞いたんだよ」


 その言葉を頭の中で復唱する。

 昼休みに、男の人と、一緒に、歩いていた……

 もわもわとロイドくんの顔が頭の中に浮かんでくる。

 ……うそっ!!

 続けてニコルちゃんが責めてくる。


「最近あたしたちと別行動することが多い気がするけど、もしかしてその人のところに……」

「違うよ!」


 その言葉を遮って否定した。


「違うんだって。気のせいだって」

「あれ? その焦り具合からして本当のことだったの?」

「彼氏なのか? どこの誰だ! 吐け!」

「名前は? クラスは?」

「今すぐ会わせろ!!」


 二人の言葉がまるで呪文のように目まぐるしくわたしに襲いかかる。


「ちょっと待って! そんなんじゃないから!! あとここ図書館だから静かに!!!」


 直後、見回りをしていた係員に「図書館では静かにするように」と注意されてしまった。



 お互い謝りあい、気をとりなおす。

 ……いや、なんでわたしも謝っているんだ?

 けどその疑問は忘れよう。過ぎた話だ。蒸し返すものじゃない。


「ねえ、なんでそんなにはしゃいでたの?」


 と二人に質問する。


「いやさ、ティアってまだ友達が少ないだろ。とくに男子にかぎっては全くいないって思ってたんだ。だからおまえに彼氏でないにしてもそう言う関係の人がいるんだなって分かると、一人の友達としてなんか嬉しかったんだよ」


 と声を抑えて微笑みながらニコルちゃんは答えた。


「そっか。確かにわたしにはこの学園で男友達って言える人はいなかったね。でも、あれは友達って言える関係なのかな」


「……?」とレンちゃんはまるで意味が分からないというように首を傾げる。


「でも、全くの他人ってわけじゃないんだろ?」

「まあ、そうなるね。たぶん他人以上友達未満ってところが一番正確な表現かもしれない」

「そりゃ微妙な立ち位置だな。相手の男子が聞いたら落ち込むぞ」


 とニコルちゃんは苦笑する。

「そうかな」とわたしは微笑んだ。

 レンちゃんはまだ首を傾げていた。

 そういえば、と星座図鑑を指さすニコルちゃん。


「何調べてたんだ?」

「あ……えっと……」


 本当の言ってしまっていいのだろうか。言ったからといって、今わたしたちが調査していることについて感づかれることはないだろうけど。

 とりあえず形についてだけでも聞いてみようか。もしかするといいヒントをくれるかもしれない。


「本を見てもわかるように星座について調べてたんだよ」


 そう言ってメモも一緒に見せる。


「これなんだけど。何かの星座に似てないかな?」


 レンちゃんとニコルちゃんはこの絵を覗き込み、ううんと唸る。やっぱり分からないのかな。そもそも星座じゃなかったのかな。そう心の中でため息を吐く。

 すると――


「あれ?」


 とレンちゃんがメモを凝視してから首を傾げる。


「ちょっとその図鑑みせて」


 何かに気がついたのか、レンちゃんはそう言いってから渡した図鑑のページをめくっていく。そして、あるページにたどり着いた時「あった」と言って、そのページを開いたまま机の上に置いた。


「もしかしてこれじゃないかな?」


 そう言って指さしたレンちゃん。

 そこに載っていた星座は――

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