第96話 蒸気
考えている暇はありません。ノンは黒龍に巻き付けていた白い包帯を縮めました。そして、そのまま黒龍の胴体に抱き着きます。こうすれば急上昇に切り替えたとしても地面に叩きつけられる心配はないでしょう。
「ッ!?」
ですが、黒龍が小さく悲鳴を上げ、急降下を止めて体をブンブンと振るい始めました。ノンに抱き着かれたのがよほど嫌なようです。
「あ、青い子たち! でっかい水の球を作って!」
『はーい!』
隙ができた、とノンは青い精霊に指示を出しました。それを見た黒龍は何か仕掛けてくるとわかったらしく、より激しくノンを落とそうとします。
「黄色い子……合図に合わせて壁を作って!! どこでもいいけど横に長く、高く! とにかく大きい壁をお願い! あっ!?」
魔力循環による肉体強化のおかげでこれまで耐えられていましたがノンは黄色い精霊に指示を出したところでとうとう黒龍の胴体から離れてしまいました。さすがにこれ以上は無理だと判断し、黒龍に巻き付けていた包帯を回収します。
「―――――!!」
晴れて自由の身になった彼は雄叫びを上げて空中に投げ出されているノンに顔を向けました。そう、ブレスを放つつもりです。
空中では身動きが取れず、包帯による緊急回避も近くに物体がありません。遠くまで先端を伸ばす必要があり、それよりも早く黒龍はブレスを放つでしょう。
「青い子、球を放って!!」
『えーい!』
ですが、ブレスを待っていたのはノンでした。彼の掛け声に合わせて青い精霊たちは巨大な水球を黒龍へ――いえ、今まさに放たれようとしているブレスに向かって撃ち出します。そう、ノンの目的は最初からブレスに水球を当てて白い蒸気を発生させることでした。
「ッ!」
それを見た黒龍はブレスを中断し、体を回転させるように左へ動かして水球を回避しました。どうやら、ブレスに水魔法を当てた時に白い蒸気が発生したのを覚えていたようです。今、視界を塞がれたらノンが何かを仕掛けてくる。彼は予想以上にノンのことを警戒しているようでした。
「赤い子、水球に向かって火球を撃って!」
『やー!』
「ッ!?」
しかし、それすらもノンは読んでいたのです。巨大な火球を準備していた赤い精霊が待っていましたと言わんばかりに勢いよく火球を放って水球にぶつけました。その瞬間、水が一気に蒸発して黒龍とノンを包み込むように蒸気が発生します。
「黄色い子たち、今だよ!」
『でっかいのどーん!』
蒸気によって視界が塞がれている中、ノンの声が響きました。それに合わせて黄色い精霊が巨大な壁を作り出します。どれほどの大きさなのか、蒸気の中からでは見えません。
「……」
黒龍は空中で止まりました。蒸気の中を飛び回り、壁に激突してしまう恐れがあるからです。しかし、その場で羽ばたいて蒸気を吹き飛ばしてもその隙を突かれてしまう可能性があります。そのため、彼はひとまず相手の出方を伺うことにしました。
「……」
しかし、いくら待ってもノンが仕掛けてくる様子はありません。これほど濃い蒸気が充満しているのならノンも黒龍を見えていないはずです。もしかしたら白い包帯を胴体に巻き付けたのは蒸気の中で黒龍の居場所を掴んでおくためだったのでしょうか。
では、白い包帯が巻き付かれていない現状、この蒸気は態勢を立て直すための時間稼ぎ?
「みんな、行くよ!」
黒龍がそう考えた時、蒸気の中でノンの大きな声が響き渡りました。ここからノンたちの反撃が始まります。
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