第94話 手札
ノンたちの攻撃の中で最も火力があるのは赤い精霊が放つ巨大な火球です。しかし、緑色の精霊が起こす風によって威力を上げたはずですが、それでも黒龍にはあまり効いていません。そうなるとあの黒龍を倒す手段を別に探す必要があります。
黄色い精霊による岩石砲も有効かもしれませんが相手は空を飛ぶ龍。機動性に優れており、当てるのは至難の業。また、外せば周囲の森への被害が大きく、おいそれとは試せません。
(精霊たちにはとにかく足止めを頼もう。攻撃は――僕がやるしかない)
「紫の子たちは魔法を待機! 君たちはドラゴンの視界を塞いでもらうよ!」
『がんばるー!』
闇魔法は対象の相手に弱体化をかけるのに特化している属性です。ですが、目眩まし以外の魔法は避けられてしまいそうですし、精霊はその性格上、弱体化をかけるのが得意ではありません。そのため、今は目眩ましに集中した方がよさそうです。
「……よし」
それぞれの精霊に指示を出し、編成の変更を終えたノンは赤い精霊たちにブレスを吐いている黒龍へ視線を戻しました。
ノンが攻撃を当てる、という方針は決まりましたが問題はあの巨体に通用する火力と飛んでいる相手に当てる方法です。彼の持ちうる手段の中にも火力の高い攻撃はいくつかありますが、そのどれもが隙が多くて何も対策しなければ当てることはできないでしょう。
(その隙を精霊たちに作ってもらう……でも、それも難しそう)
黒龍のブレスを精霊たちが悲鳴を上げながら躱すのを見ながら何か方法はないか、と思考を巡らせます。
――いいか、ノン。戦略を考える時、重要なのは持っている手札の確認とその組み合わせだ。
そんな言葉がふと浮かびました。勉強会の中でオウサマはノンに戦い方を教えたことがあります。一人で旅をすることになった場合、少しでも彼の生存確率を高めるためです。
――例えば、白い包帯。それは魔力を通すことで自由自在に形を変え、思うままに操れるものだ。それに剣を持たせた場合、どんなことが起こると思う?
あの時の彼女はどこかわくわくした様子で色々な戦略を教えてくれました。薄々感じていましたが、オウサマは男のように格好いいものを好む性格なのでしょう。次から次へとアイディアが浮かぶ彼女に『すごいなー』と感心したのを覚えています。
(手札の確認……そして、その組み合わせ)
手札はノンの場合、魔力循環による肉体強化。そして、白い包帯。
精霊たちはそれぞれ、火魔法、水魔法、土魔法、風魔法、闇魔法の五種類。
『やー!』
『けしてー!』
『かべつくるよー!』
『ひよ、おおきくなれー!』
『みえなくするよー!』
ノンが作戦を考えている間、精霊たちは必死に黒龍と戦っています。あまり時間は残されていません。
「ッ! 危ない!」
その時、黒龍のブレスが放たれ、赤い精霊たちがそれを避けた先に火を消すために森に近づいていた青い精霊の一団がいるのに気づき、叫びました。このままでは直撃してしまいます。
『きゃー!』
ノンの叫びでブレスに気づいた青い精霊たちが一斉に大量の水をブレスにぶつけました。しかし、ブレスの火力が高すぎて水は一瞬にして蒸発。白い蒸気が精霊たちの姿を隠してしまいます。
「目眩まし!」
『みえないよー!』
紫色の精霊たちに指示を出し、黒龍の顔を覆うように靄が発生したのを見た後、彼は青い精霊たちがいた場所へ駆け出しました。
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