第92話 黒龍
上空で様子を伺うようにノンたちを見下ろす黒いドラゴン。そんな存在を前にノンは唖然とするしかありません。
(ドラゴン……どうして、こんなところに……いや、そうじゃない! 僕たちが来ちゃったんだ!)
この半年間、精霊の国は平和でした。ですが、瞬間移動した途端、黒龍に襲われたのです。考えられるとしたらこの森が移動した先があの黒龍の縄張りだったとしか考えられません。
「―――――」
そして、その答えはすぐにわかりました。上空にいる黒龍の口元から小さな火が噴いたのです。それを見た瞬間、ノンの顔から血の気が引いていきました。
「まずっ……赤い子、放って!」
ブレス。ドラゴンが放つ技の一つであり、森を燃やした原因でしょう。ノンはすかさず、精霊に指示を出して迎え撃ちます。
『やー!』
赤い精霊が一か所に集まり、最大火力で魔法を放ちました。黒龍に向かって巨大な火球が射出されると同時に凄まじい熱気がノンを襲い、思わず顔を庇ってしまいます。
「ぐっ」
ですが、その直後、上空から黒龍のブレスと火球が激突して世界は真っ白に染まりました。
熱気、衝撃、爆音、光。
その全てが彼に襲い、体が吹き飛びそうになります。実際、咄嗟に白い包帯の先端を地面に突き刺して体を支えなければその場でひっくり返っていたでしょう。ですが、五感のほとんどが一時的に機能しなくなってしまったらしく、周囲の様子がわからなくなってしまいました。
「ッ……紫色の子、上空に向かって靄を全力展開! ドラゴンの視界を塞ぐよ!」
『はーい!』
このまま追撃されたら対処できないと判断した彼は急いで時間稼ぎをしようと指示を出します。霞む視界を上にあげれば紫色の精霊によって生み出された靄が広がっていくのが何とか見えました。
「青い子はそのまま消火活動をお願い! ドラゴンの攻撃を避けるの優先で!」
『はーい!』
今のうちに精霊たちの編成を変えます。あの黒龍がいる以上、鎮火できたとしてもすぐに火がついてしまうでしょう。ですが、放置するわけにもいかないため、青い精霊を消火活動に専念させることにしました。
「黄色い子の半分はこっちに来て! 攻撃が来たら防いでくれる!?」
『りょうかいー!』
「緑の子は赤い子の援護! 火に風を当てると火力が上がるよ! 強すぎたら吹き飛んじゃうから調整してね!」
『ほんとー!? やってみるー!』
「紫の子は――ちょっ」
黄色い精霊は壁要因。緑色の精霊は赤い精霊のフォロー。そこまで指示したところで黒い靄が強風によって晴らされてしまいました。黒龍が痺れを切らし、靄に突っ込んで近くまで来てしまったのです。
間近で見るとその黒龍はノンたちを睨みつけていました。明らかに敵意を持っています。ですが、こんな状況であるはずなのに周囲で燃える炎の赤が黒い鱗に反射してキラキラと輝いているように見えました。
「キレイ……」
「ッ……」
ノンが思わず、感嘆の声を漏らすと黒龍はどこか動揺したように目を見開きます。ですが、それは一瞬であり、彼はノンたちを威嚇するようにその場で咆哮しました。その声圧に顔を歪ませ、必死に耐えます。
(今の僕じゃ全力で逃げても追いつかれる……なら、どうにかして倒すしかない!)
燃える森の中、オウサマがいない状況でノンは精霊たちと共に黒龍と戦うことになってしまいました。
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