第90話 転移
「……」
オウサマたちが出かけて三日ほど経ち、会議が開かれる日になりました。それまで平和に精霊たちと過ごしていた彼ですが、さすがに少しだけ緊張した様子で日課の祈りを捧げています。
(今日で決まるんだ……)
何時に帰ってくるかわかりませんがオウサマは精霊なのでいつでも精霊の国に帰ってくることができます。そのため、オウサマとテレーゼは今日中にこの国へ帰ってくるでしょう。つまり、今日で彼の行く末が決まるのです。
「……はぁ」
祈りを捧げ終わった後も彼はベッドから降りられませんでした。実はまだオウサマから旅に出ていいと認められていなかったのです。魔力感知の数当ても失敗続き。仮に家に帰られず、旅に出るしかなくなったとしてもこの国を出発する日はずっと先になりそうでした。
「ん?」
そろそろ精霊たちに会いに行こう、とベッドから降りた時、不思議な感覚を覚えます。魔力感知を鍛えていなければわからないほど微かな魔力の歪み。それが大木全体――いえ、大木を囲う森全土に広がっているようでした。
「ッ!?」
そして、その時は突然、訪れます。微かだった魔力の歪みが一気に膨れ上がり、彼はその衝撃でその場に片膝を付いてしまいました。
「こ、れって!」
数秒ほどで強烈な違和感は消えましたが、周囲では様々な変化が起こっていました。
まず、気温が一気に上がりました。今の季節は秋。少しだけ肌寒くなってきたはずなのに今は夏よりも暑いと感じてしまいます。
更に窓から見える景色が明らかに変わりました。これまでは遠くの方に山が見えていましたが、今は目と鼻の先に大きな火山が立っているのです。
(瞬間移動!?)
そう、これこそオウサマが言っていた森がランダムな場所へ瞬間移動する現象なのでしょう。まさかこのタイミングで発動するとは考えもしなかった彼はただただ驚くばかりです。
「あ、そうだ! みんなは!?」
慌てて部屋を飛び出し、螺旋階段が見える位置に向かいました。精霊たちも今の瞬間移動で戸惑っているかもしれません。そうなれば大混乱が起こってしまう。それを危惧して彼は目的地へ急ぎます。
「……」
『あったかーい!』
『あっつーい!』
『わーぷ!』
『わーい!』
しかし、そんな心配は杞憂だったようで精霊たちは――特に赤い子たちは水を得た魚のようにびゅんびゅんと飛び回っていました。炎を司る精霊なので暖かい気候を好むのでしょう。逆に青い子たちは少しだけ元気がないように見えます。
「……大丈夫そうだね」
そんな彼らを見てノンは力の入っていた肩を落としてため息を吐きました。よく考えてみればこの国にいる精霊たちはこれまで何度も瞬間移動を経験しているでしょう。この程度では動揺するはずもありません。
(ちょっと緊張しすぎかな)
いつもの彼ならすぐに気づいていたでしょう。きっと、自分の行く末が決まる、と必要以上に身構えてしまっているようでした。そんな余裕のない自分に思わず苦笑を浮かべてしまいます。
「なっ!?」
そして、次の瞬間、大木の外で凄まじい爆発音が轟き、感じたことのない熱気が彼を襲いました。
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