第89話 留守
「――よし、じゃあ、行ってくる。数日で戻ってくるがくれぐれも大木から出ないようにな」
「はーい、気を付けていってらっしゃーい」
ノンが精霊の国に来て半年。妖精王が襲来したり、熱を出したりとずっと平和だったわけではありませんが彼はこの半年間、充実した日々を過ごしていました。
「食事は冷蔵庫に入れてある。大量に作っておいたし、日持ちもするが残量には気を付けて食べろ。それから――」
「いい加減なさい! 初めて留守をする子供に色々口うるさく言う母親か!」
かれこれ数分ほどノンへ言葉をかけていたオウサマにテレーゼが大声でツッコミを入れました。そう、彼女たちは今から各種族の代表が出席する会議へ赴くのです。もちろん、ノンは一緒についていけないため、精霊の国でお留守番をすることになりました。
「ノンくんは強くなったでしょ! 何かあっても対処できるわ!」
「だが、一人でいるのは初めてなんだぞ? 無自覚に危険なことをしてしまう可能性だって……」
「この子がそんなことするわけないじゃない! わたくしたち以上に大人なの!」
(あ、自分で言っちゃうんだ……)
テレーゼの言葉に思わず苦笑を浮かべてしまいます。この半年、テレーゼは一か月に一度のペースで精霊の国を訪れていました。そのため、お互いに人となりを理解しているため、彼女もノンに子ども扱いされていることに気づいています。まぁ、それもいいかとすぐに受け入れ、彼の前ではよりはっちゃけるようになったのはノンにとって誤算でした。
「しかし……」
「いいから! あなたには大切な使命があるでしょ! ノンくんのこと、家に帰すんでしょ!」
「……ああ、そうだったな。会議に遅れたらそれも叶わない。ノン、必ず家に帰してやるからな」
「うん、無理はしないでね。それに精霊たちも一緒だから寂しくないよ」
会議に出るのは精霊王であるオウサマと妖精王のテレーゼのみ。他の精霊たちはノンと一緒に大木にいます。今もオウサマに向かって『はやくいけー』と文句を言っていました。二人が出発した後、ノンと一緒に遊ぶつもりなのでしょう。
「くっ……わかった。じゃあ、行ってくる」
「行ってくるわ!」
「行ってらっしゃい!」
こうして、オウサマとテレーゼは精霊の国を出発し、会議が開かれる場所に向かいました。具体的な場所はわかりませんが戦争中である人間の国と魔王国ではないようです。
(もう半年かぁ……)
二人の姿が見えなくなった頃になってノンは少し考え深い気持ちになりました。長いようで短い時間をこの国で過ごし、彼は最初に比べて比べ物にならないほど成長したのです。きっと、オウサマとテレーゼ、精霊たちが協力してくれたからでしょう。
『のん、あそぼー』
『おにごっこー』
『かくれんぼ!』
「んー、じゃあ、修行の代わりに鬼ごっこしよっか。僕が鬼でいい?」
数日後、彼の運命が決まります。それまで緊張していても意味はないので精霊たちと遊んで気を紛らわせましょう。
そう考えてノンは精霊たちと共に螺旋階段を昇ります。数日後、あんなことが起こるとは考えもせずに。
感想、レビュー、ブックマーク、高評価よろしくお願いします!




