第6話 両親
あれから赤い髪が特徴的な父親はノンを丁寧にベビーベッドに戻し、上から彼の顔を覗き込みます。その隣には彼の妻――つまり、ノンの母親もニコニコと笑いながら並んでいました。
「―――? ―――」
「―――。ノン――――」
彼らはノンを見守りつつ、小声で話をしています。相変わらず言葉がわからないので会話の内容はわかりませんが父親が母親に話しかけ、それに答えるというやり取りをしていることからノンに関する質問をしているようです。
「――――! ――! ―――」
その時、何かきっかけがあったのでしょうか。これまで答えるだけだった母親が空中に人差し指で何かを描くような動きをしながら楽しそうに笑います。その動きはどこか彼女がノンを喜ばせるために魔法を使う仕草に似ていました。
「―――。あっはっは!」
「―――」
「っ……ノン、―――」
そんな母親を見て父親は大きな声で笑います。しかし、目の前には少しうとうとしているノンがいました。ずっと、彼らを見守っていた獣人のメイドさんが小さな声で父親に話しかけます。きっと、今にも寝そうな子供の前で大声を出すな、と注意したのでしょう。その証拠に彼は顔を引きつらせて慌ててノンの顔を覗き込みながら言葉を呟きます。
「あー」
うとうとしていたノンですが、彼の笑い声で少しだけ目が覚めました。ですが、赤ん坊の体は特に怯えていないので『気にしないで』と声を漏らします。それを聞いた父親は少しだけ頬を緩ませ、大きな手でノンの頭を撫でました。
(この人たちが……僕のお父さんとお母さん……)
眠気でぽやぽやする頭で彼は自身を見下ろす二人の男女を見つめます。
金髪の綺麗で、魔法が得意な母親。
赤髪の逞しくて、大きな父親。
いかにもファンタジー世界に出てきそうな風貌を持つ両親です。もちろん、前世の両親とは容姿もそうですが、性格も違いました。
前の母親は少しパワフルであり、よく笑い、よく叱り、よく褒めてくれました。
前の父親はそこまでアクティブではなく、読書が好きでノンが色々な物語に出会えたのは彼のおかげ。そして、息子や娘が悪いことをすれば困ったように笑い、一緒に母親に謝ってくれました。
当たり前ですが、前世の両親は目の前に立つ両親とは全然違います。そのはずなのに彼らの目は――ノンを見つめる優しい目だけは同じです。だからこそ、ノンもすぐに彼らのことを受け入れることができたのでしょう。
「ノン、―――」
「――――、ノン」
転生して数日、やっと両親に出会えた彼は安心したのでしょうか。次第に瞼が落ちていきます。それに気づいた彼らはまたノンの名前を呼びながら笑みを浮かべます。
(おやすみなさい、お父さん。お母さん)
そして、ノンの意識はゆっくりと落ちていきます。
そんなことがあったからでしょうか。この日は前世のお父さん、お母さん、そして、幼い妹と一緒に手を繋いで公園に行く夢を見ました。とても……とても、幸せな夢でした。
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