第84話 半年
「さて……話を戻そうか。先ほども話したが私たち、種族の代表が集まる会議は今から約半年後。今年の会議はもう終わってしまったんだ」
「そう、なんですね」
覚悟はしていましたが、少なくともノンは半年もの間、精霊の国に滞在することになりそうです。早く家族の元へ帰りたい気持ちはありますが、彼も一人で旅をする過酷さは想像できるのでこの半年で可能な限り、力を付けるべきでしょう。
「その会議には誰が来るんですか?」
「精霊の王である私。妖精王のテレーゼ。そして、人王、獣王、龍王、海王……最後に魔王だ」
「魔、王……確か、魔族の王様ですよね?」
「ああ、きっと、戦争中である人王と魔王は来ない。私も基本、不参加だな」
「え、そうなんですか?」
真面目な彼女のことなので会議にはしっかりと参加していると思っていたため、ノンは思わず、意外そうに言葉を漏らします。
「ああ、精霊は基本、何も変わらないからな。話すことがない。なら、後日、テレーゼから会議の内容を聞いた方が楽だ」
「……」
テレーゼがどこかオウサマに当たりが強かったのは毎年、会議の話をさせられていたからでしょうか。少しだけ元気な妖精に同情してしまいます。
「だが、今回は話が違う。お前がいる。会議に出る理由には十分だ」
「あ、ありがとうございます」
少しくすぐったい気持ちになり、彼は照れ臭そうにお礼を言います。オウサマは気にするなと僅かに笑い、コップを手に取って一口、水を口に含みました。
「しかし、問題はまだある。半年後、会議で何も成果がなかった場合、お前は人間の国を旅することになる」
「はい、そのつもりです」
「仮に半年後までに私がお前を認めたとしよう。だが、会議の後、この森がどこにいるかわからない。人間の国から遠いところにいるなら待った方が賢明だ」
「あ、そっか……」
精霊の国がある森は古い魔法使いによってランダムに瞬間移動する術式が組み込まれています。そのタイミング、移動先がわからない以上、運が悪ければずっと旅に出られない可能性もありました。
「まぁ、それはその時になったら考えよう。とにかく、今は知識を蓄え、力を付けて旅に出る準備をするんだ」
「はい、コーチ!」
「コーチではない、オウサマだ」
いつものようなやり取りをして今日の勉強会は終了しました。その日、午後の修行は普段よりも力が入り、オウサマに少しだけたしなめられたのはいい思い出です。
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