第83話 魔物
「この世界には魔物と呼ばれる奴らがいる。聞いたことはあるか?」
「いえ、ないです」
さすがに前世の物語の中に出てきました、とは言えず、ノンは首を横に振ります。その答えも予想していたのでしょう。彼女は特に反応することなく、説明を続けました。
「魔物は他の生物とは違い、現象に近い。その原因は魔力だ」
「現象? 魔力がなにか影響を?」
「そうだ、この世に存在するものには必ず魔力が宿っている。それは生物の他にも鉱石や建物。空気中にだって含まれているんだ。無機物にも魔力が宿っているのはあまり知られていないがな」
その話はエフィから軽く聞いたことがあります。魔力が少なくなると体調を崩し、全てなくなったら死んでしまう。だから、『魔漏症候群』は恐ろしい病気、だと。
「そんな魔力も一か所に集まるのはあまりよくない。そして、一定量を超えると魔物となって暴走する」
「え、それは魔物って生き物じゃないんですか?」
「ああ、あえて言うなら魔法生物だな。だからこそ、現象に近いと表現した」
オウサマの話を聞いてノンは少しだけ安堵してしまいます。きっと、旅を始めたら命のやり取りをすることになるでしょう。それが動物相手でも彼は心を痛めてしまう恐れがありました。そのせいで大きな隙を晒す可能性もあります。ですが、魔物相手なら少なくとも現象だと割り切れそうなのでホッとしました。
「魔物はどれくらいの頻度で発生するんですか?」
「場所によるな。魔力の高い森や洞窟、なによりダンジョンはあやつらの巣窟だ」
「ダンジョン……」
「不思議な場所でな。魔力を吸収して階層を構築したり、高位のダンジョンでは魔道具まで生成する。『吸魔の指輪』もその一つだ」
高位のダンジョン。そう聞いてノンは思わずエフィとジェードの顔を思い出します。『吸魔の指輪』は彼女たちが冒険者をしていた時に拾ったと言っていました。高位、と言っていたのでエフィたちは熟練の冒険者だったのかもしれません。
「だが、森や洞窟で発生しやすいといっても例外はある。普通に街道を歩いているだけで遭遇する時もそれなりにあるぞ」
「じゃあ、十中八九、戦うことになりそうってことですね」
「そうだ。だから、ノンが旅に出ることになった場合、私が認めるまでこの国を出すつもりはない。お前には生きて家に帰ってほしいからな」
「頑張ります!」
オウサマはそう言ってノンの頭に手を乗せました。どうやら、旅を始めるにはオウサマに実力を認めてもらう必要がありそうです。今まで以上に頑張らなければ、とノンは改めて気合を入れるのでした。
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