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英雄くんはおうちに帰りたい  作者: ホッシー@VTuber
第一章 英雄くんはおうちに帰りたい
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第80話 お別れ

 テレーゼは妖精王。妖精の国の代表です。


 そんな彼女が国を離れていられる期間はそこまで長くない。それは政治に詳しくないノンでも容易に想像できます。


「ここから妖精の国まで約一週間。行きにも同じ距離を移動したから急いで帰ってもテレーゼは三週間も国を留守にしたことになる。これでもギリギリまでいてくれた方だ」


 国に帰る準備をするため、客室に戻ったテレーゼを見送った後、ノンはオウサマから説明を受けました。


「彼女ももう少し早く伝える予定だったみたいだが、予想以上にお前と仲良くなったからな。今日まで言い出せなかったんだろう」

「そう、ですか……」

「……寂しいか?」

「……」


 オウサマの問いに彼は黙って頷きます。テレーゼが来るまで精霊の国は精霊たちが騒がない限り、静かな国でした。


 ですが、テレーゼがいたこの一週間はとても騒がしく、楽しい日々だったのです。ノンもオウサマも騒ぐタイプではありませんので彼女の明るさはこの国に活気をもたらしてくれました。


「なに、一生の別れになるわけではない。生きていればまた会える。そうだろう?」

「……はい」


 彼女はそう言いますが実際に会いに行くのは難しいでしょう。出発はいつになるかわかりませんがオウサマの策が全て不発に終わった場合、ノンは人間の国を旅することになります。そうなれば妖精の国へ行くのは無事に家へ辿り着いてからになります。それは一体、いつになるのでしょう。彼にはわかりませんでした。


「まぁ、たまに呼ぶのはいいだろう。時を見て遊びに来てもらえばいい」

「……はい」


 落ち込んでいるノンを見てオウサマは彼の頭に手を置いて励まします。きっと、テレーゼなら呼べば文字通り、飛んできてくれるでしょう。


「準備ができましたわ」


 その時、大きな――といっても妖精である彼女が背負うにはパンパンに膨れたリュックを背負ったテレーゼがオウサマの部屋へ顔を出します。


「あら、何かお話ししてたんですの?」

「まぁ、色々な。もう行くのか?」

「ええ、夜になったら飛べなくなるから……ノンくん、こっちに来てくれる?」


 テレーゼに呼ばれ、ノンは素直に彼女へと駆け寄りました。たった一週間。ですが、それでも彼女のいる生活に慣れ始めた頃だったので明日から会えなくなるとやはり、寂しさがこみ上げてきました。


「じゃあ、わたくしは国に戻りますわ。次来る時までに教えたこと、できるようにしておきなさい!」

「ッ……うん、わかった! テレーゼも元気でね」


 どうやら、オウサマが呼ぶまでもなく、彼女はまたここに来てくれるようです。それが嬉しくてノンは笑顔を浮かべて頷きました。


「さて、それでは行きますわ! 一か月後(・・・・)までごきげんよう!」

「……ん? おい、待て! そんな頻繁に来るつもりなのか!?」

「おほほほ! わたくし、ノン君が気に入りまして! 思う存分、構い倒してあげるんですわー!」


 そう言い残してテレーゼは窓から飛び出し、一瞬で遥か遠くまで飛んで行ってしまいました。


「まったく、あやつは元気がありすぎる」

「あはは……でも、また会えそうでよかったです」


 一か月後、テレーゼはノンに会いに来てくれる。ですが、それは彼女に会うためには一か月後までノンはこの国にいる必要があります。


「……ああ、そうだな」


 それをすっかり受け入れてしまっているノンを見てオウサマは何とも言えない表情を浮かべてしまいました。


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