第77話 不完全燃焼
「あれ」
オウサマの勝利宣言が聞こえたノンは首を傾げて、伸ばしていた白い包帯を停止させます。彼の頭上では幾重にも重なって巨大化した白い塊ができていました。せっかく準備が整ったところでしたが、止められたら止めるしかありません。
(どうしたんだろ?)
伸びに伸びた包帯を元に戻り、最下層へ戻るとテレーゼが床で目を回しているのに気づきました。
包帯で蜘蛛の巣を作り、突っ込んできたところを受け止める。そして、包帯を縮めることで床へと弾き飛ばしてそこへ大技を叩き込む。そんな作戦でしたが、床へ弾き飛ばしただけでテレーゼを無効化してしまったようです。
「さて、色々聞きたいことはあるが……それはテレーゼが起きてからにしよう」
「わかりました。そういえば、テレーゼに怪我はなさそうですか?」
「ああ、単純に何度も回転しながら床に叩きつけられたせいで三半規管がやられただけだ。時間が経てば目を覚ますだろう」
「そうですか……よかった」
オウサマの言葉にノンはホッと安堵のため息を吐きました。模擬戦とはいえ、怪我をしてしまう可能性はあったため、心配していたのでしょう。
「しかし、手加減していたとはいえテレーゼを一方的に倒してしまうとは……ノンは戦闘の才能があるのかもな」
「えっと、どうでしょう?」
実際、彼はそこまですごいことをしたとは考えていませんでした。テレーゼは手加減をしていましたし、魔法の行使は魔力感知で察することができます。また、包帯を使った罠も初見だから引っかかってくれたようなもので実用性は皆無。もう一度、テレーゼと戦うことになった場合、勝利するのは難しいでしょう。
「ん……あれ、わたくし……」
「お、目を覚ましたか。私の部屋に行って話をしよう」
「うぅ、もっと丁寧に扱ってほしいですわぁ……」
そこでテレーゼが目を覚ましたのでオウサマはまだ飛べない彼女の首根っこを摘まんで螺旋階段を昇り始めました。ノンもその後に続き、再びオウサマの部屋に集まります。
「テレーゼ、ノンはどうだった?」
「正直、舐めてましたわ……特に最後の罠は見事に騙されてしまいましたもの」
「うーん……」
テレーゼの褒め言葉を彼は素直に受け取れませんでした。やはり、最後の大技を出す前に終わってしまったのが心残りだったようです。
「ん? どうした、勝ったのに浮かない顔をして」
「あ、えっと……もっと色々できたかなと思いまして」
そんな彼の様子に気づいたオウサマに適当に誤魔化すノン。最後の大技も命中していた保証はありませんし、あれを当てていた場合、テレーゼを傷つけていた可能性もありました。今更ですが、あそこで模擬戦が終わったのはちょうどよかったかもしれません。
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