第72話 お願い
「……え?」
オウサマの言葉に思わず、ノンはオウサマの顔を見上げてしまいます。それと同時にノンの肩に少しだけ冷たい手が置かれました。もちろん、その手の主は優しい笑みを浮かべているオウサマです。
「お前と出会って一週間しか経っていないが、久しぶりに充実した毎日を送っている。お前にとっちゃ不運だったかもしれんが、何度だって伝えよう。私はノンと出会えて嬉しい」
「わたくしも! こんないい子に出会えて幸せですわ! 産まれてきてくれてありがと! この出会いはきっととっても素敵なことよ! 運命に逆らって産まれてきてくれたおかげですわ!」
「ッ――」
オウサマの肩から顔を出したのは向日葵のような笑顔のテレーゼ。相反するような二人からの言葉にノンは目を見開きました。
――のん君、誕生日おめでとう! これからもずっと一緒にいようね!
何故でしょうか。ふと思い出したのは前世でノンの誕生日をお祝いするために病室に駆けつけてくれた幼馴染の女の子でした。
(あ、そっか……そうだった)
どんなに迷惑をかけても生き続けようと思えたのは彼が産まれてきたことを喜んでくれる人がいたから。ノンに生きていて欲しいと願う人たちがいたから。そのことをノンは思い出しました。
それは今世でも変わりません。
エフィたちは誕生日の度にノンが産まれてきてくれたことを盛大に祝ってくれました。
オウサマやテレーゼもノンと出会えたことを喜んでくれました。
「……はい、僕も二人に出会えてよかったです!」
なら、やることは前世と変わりません。
彼はただ、懸命に命を燃やすだけ。
どんな人に対しても『生き抜いたぞ!』と胸を張って宣言できるように生を謳歌するだけ。
前世では成し得なかった何かをするだけ。
それがどんなものか、彼もまだわかりません。この先にどんな困難が待ち受けているのか、今から想像するだけで背筋が凍りつきそうになります。
でも、それが生きるということ、それが前に進むということ、それが――前世で不慮の事故によってそれすら満足にできなかったことでした。
「僕、やっぱりおうちに帰りたい。お母さんたちにただいまって言いたい」
残念ながらテレーゼの花占いでは何もわかりませんでした。しかし、ノンの心に刺さっていた棘を取り除くきっかけとなったのは確かです。
「だから、お願いします。僕に力を貸してください」
そう言ってノンは二人に頭を下げました。これまではオウサマの好意で協力してくれていましたが、きちんとお願いしていなかったことに気づいたのです。
「……ああ、もちろんだ。全力で協力する」
「もちろんですわ! わたくしにできることならなんでもおっしゃってください!」
そんなノンのお願いに対し、オウサマとテレーゼは力強く頷きました。
感想、レビュー、ブックマーク、高評価よろしくお願いします!




