第71話 罪悪感
ノンは産まれた当初から考えていたことがありました。
彼が転生しなかった場合、エフィの子供はどのように産まれていたのか、と。
もし、普通に産まれ、エフィたちに愛情を注がれながら育つはずだったのなら、ノンが転生したせいで本来、産まれるはずだった命が消えたことになります。
もちろん、自分の意志で転生したわけではありません。ですが、ノンが転生しなければ産まれていた命があったのなら、ノンはその命を踏み台にしたことに他ならないのです。
しかし、どんなに考えたところですでに彼は産まれており、その真実を確かめる方法はありません。だから、考えることを止め、失われたかもしれない命の分まで今世を生き抜こうと決意しました。
(でも、違った……お母さんの子供は本来、産まれる運命じゃなかった)
これもあくまで予想です。それでも、産まれるはずのなかったエフィの子供は異世界の魂を宿してこの世に誕生した。そう考えずにはいられません。
だって、そっちの方がノンにとって都合がいい解釈だからです。
「ノン、大丈夫か?」
その時、オウサマの声でハッとしました。いつの間にか俯いていたようで慌てて顔を上げるとオウサマとテレーゼが心配そうに彼を見つめています。
「あ、えっと……実は――」
ノンはジェードから聞いた話を手短に説明しました。もちろん、転生に関しては一切触れずに。
「なるほど、運命に逆らって産まれた子供か……お前が赤ん坊の頃から自我があったのもそれが原因かもしれんな」
「え? 赤ちゃんの時から自我がある、ですの?」
「そうだ。それに関しては後で話す。今はノンの運命についてだ」
「ッ……」
そう言ってオウサマはノンへ視線を向けます。別に怒られるわけでもないのにビクッと肩を震わせたのは心のどこかで産まれたことに罪悪感を覚えているからかもしれません。
ノンは転生者。産まれるはずのなかった命。
そのせいで色々な人に迷惑をかけています。
今頃、エフィたちはノンの行方を捜しているでしょう。心配して泣いているかもしれません。特にエフィは精神的に弱い部分があり、自分のことを責めているに決まっています。
家族だけではありません。ノンがいなければオウサマのお世話になることもなく、テレーゼが一週間もかけてここに来ることもありませんでした。
転生したことも、エフィの子供として産まれたことも、精霊の国に来てしまったことも、全てが不可抗力だったのはノンもわかっています。
それでも、自分のせいじゃなくても誰かに迷惑をかけることを彼は前世で嫌になるほど経験していました。
だからこそ、迷惑をかけた時点で彼は自分を責めてしまいます。
自分がいなければ、と罪悪感で心が軋みます。
そして、それでもなお、前世の彼は生きることを望みました。死を何度も退け、奇跡の生還を何度も経験しました。死んでしまったらもう何も成せないことを知っていたからです。
「ノン」
そんな彼の名前をオウサマが呼びました。凛、とした透き通った綺麗な声。しかし、今は何故か少しだけ冷たく聞こえるのは何故でしょうか。
「よく産まれてきてくれたな。ありがとう」
しかし、その冷たい声から発せられた言葉はそんな温かいものでした。
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