第70話 死産
「運命が、ない? それはどういうことだ?」
テレーゼの叫びに反応したのは眉をひそめているオウサマでした。花占いは選んだ花の運勢から間接的にその人の行き先を辿るもの。選んだ花がどうであれ、何かしらの運命が見えるはずです。だって、ノンは確かにこの場に立って白い花を選んだのですから。
「ノンくんは……お花を選ぶ運命じゃなかったの。実際に選んだ白いお花だけじゃない。ここにあるお花、全てノンくんから選ばれる運命じゃなかったの!」
「本当なら僕は花を選ばなかった、ということですか?」
「ううん、そうじゃない! そもそも花占い自体、ここではやらなかった! 今の時間、お花たちの運勢が全て空っぽだから本当なら私が魔法を使うことすらなかったの!」
支離滅裂な説明にノンとオウサマは顔を見合わせてしまいます。
テレーゼはここで花魔法を使うはずではなかった。つまり、本来の運命ではテレーゼがここに呼ばれることはなかった、ということです
では、どうして彼女は精霊の国に来たのでしょう。それはノンが精霊たちによってこの国に連れて来られてしまったからです。
「じゃあ、ノンは精霊の国に来るはずではなかった?」
「そんな生ぬるいものじゃないですわ……お花から色々な運命を辿ってみたけど、その全てにノンくんはいなかった。今にも、未来にも、過去にすらも」
テレーゼの花占いは花の運勢を見ます。つまり、ノンがその花の存在を知る、という運命も可能性さえあれば見つけることができるのです。
しかし、それすらもできなかった。それはこの先、全ての花をノンは知り得ない、という意味でもあります。
もちろん、それはあり得ません。街の花屋、道すがらなど花を知る機会はいくらでもあります。それ以前にすでにノンの目の前にはテレーゼによって無限の花が満開に咲いていました。
「過去にすら……それでは、ノンは最初から存在していないことになるではないか」
「ええ、だからそう言ってるの! ノンくんは……生まれるはずのなかった命だったの!」
「……あっ」
――……実はな、ノンが産まれてきたこと自体、奇跡だったんだ。
不意にジェードの言葉を思い出しました。エフィが妊娠中に体調を崩し、流産しそうになったことがある、と。
では、本当の運命ではその時点でエフィのお腹の中にいた赤ん坊が息絶え、死産になっていたとしたら?
そうであれば規格外な子供が精霊の国に来ることもなく、テレーゼも呼び出されず、花魔法を使っていないでしょう。ましてや、死産となった赤ん坊が花を知る機会などないのも当たり前です。
でも、死産となるはずだった赤ん坊はここにいます。確かに産声を上げて、この世に産まれてきた命はここに立っています。
「……ああ、そっか」
エフィの子供は死産となるはずだった。しかし、そこでイレギュラーが発生したのです。
そう、異世界で命を落とした魂がその赤ん坊に宿った、というイレギュラーが。
感想、レビュー、ブックマーク、高評価よろしくお願いします!




