第69話 運勢
「えっと……そんなにマズイ運勢でした?」
「ひゃっ!?」
予想外の反応にノンは選んではいけない花を選んでしまったのか、と不安になってきました。しかし、彼に声をかけたテレーゼは小さな悲鳴を上げてしまいます。そんな彼女ですが、どこか怯えているように見えるのは気のせいでしょうか。
「テレーゼ、どうした?」
「……ありえません」
「ありえない? 一見、普通の花だが……」
「違うの。ノンくんが選んだのは普通のお花。きっと、人間の国にも咲いてる一般的なものよ」
オウサマに声をかけられ、正気に戻ったテレーゼでしたが様子がおかしいのは変わりません。ノンはただ白い花を選んだだけなのにここまで狼狽するのはあまりに異常でした。
「わたくしの花占いは少しだけ特殊ですの」
「特殊?」
「はい、わたくしが見れるのはあくまでお花の運勢。そこから間接的にその人の運勢の傾向を探る、という仕組みというわけですわ」
「えっと、すみません……よくわかりませんでした」
「そうですわね……例えば、ノンくんが白い花と赤い花のどちらかを選ぶ可能性があるとするわ。そして、それぞれの花を選んだ運命によってその行く末が変わるとする。白い花を選んだ運命だったらすぐに家に帰られる運命の途中にいる。でも、反対に家に帰るのに苦労する場合、赤い花を選ぶ運命だった、みたいな? 言ってしまえば、ノンくんは今、どんな運命を辿ることになるのか、その中間地点を花で見極めてるってこと!」
テレーゼの説明を聞いてノンは『並行世界』という言葉を思い浮かべました。様々な選択を迫られる世の中で『選ばなかった世界』の総称。『ああしていれば』、『こうしていたら』と思い浮かべる可能性の世界。
花占いはその並行世界の仕組みを利用しているようでした。
例えば、ノンにこの先、三つの運命が待っているとします。家に帰られる運命。家に帰られない運命。精霊の国で生きていく運命。
今はどの運命に行きつくのか、誰にもわかりません。ですが、もし、家に帰られる運命を辿る場合、テレーゼの花占いで白い花を選ぶ、という流れがあったとしたら?
彼女は花の運勢――『ノンが家に帰られる運勢だった場合、白い花が選ばれる』という内容を確認することができるのです。もちろん、待ち受ける三つの運命全てで白い花を選ぶ、という運命を辿ることになる場合、何も意味は成しません。
それでも試す価値はある。オウサマはそう考えてテレーゼを呼んだのです。
「運命は幾重にも枝分かれするからお花を選んだだけではっきりとした運勢が見えることはほとんどないわ。そうなるかも、ぐらいの的中率なの。だから、予言じゃなくて占い。参考程度にしかならないお遊びよ」
「だが、今は少しでも情報が欲しい。ノンが辿る運命の傾向だけでも知れたら、と思ったんだが……何があった?」
「それは……」
どこか浮かない顔で説明を終えたテレーゼにオウサマは問いかけます。ですが、問いかけられた彼女は言いづらそうに口をもごもごするだけに終わりました。
「テレーゼ、教えて。どんな運命が待ってても僕は大丈夫だから」
「……ないの」
「ない? 何がだ?」
「だから、運命が、ないの!!」
二人に詰め寄られたテレーゼは観念したように大声でそう言い放ちました。
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