第65話 出身国
「もう一回! もう一回だけ! 【ステータス】!」
――魔力を感知しました。『■■■の■愛』の効果により、抵抗します。
「きゃあああああああ♪」
「ノン、文字の形が崩れている。変な癖が付く前に直すべきだ」
「あ、ホントだ。ありがとうございます」
あれから何度もノンへ【ステータス】を使ったテレーゼですが、どうやらこのアトラクションが気に入ってしまったようで嬉しそうな悲鳴を上げながら窓の外へ吹き飛んでいきます。そんな彼女を見ずに文字の練習に没頭するノンとオウサマ。彼女の性格を理解した結果、好きにさせた方がいい、と判断したようでした。
「ふぅ、満足ですわ。ノンくん、ありがと!」
「あ、ううん。僕は何もしてないよ。ほら、オウサマが小さなコップを用意してくれたからお水でも飲んで」
「ええ、いただきますわ!」
ノンの勧めでテレーゼはテーブルに着地。そのまま水の入ったコップを抱えて(一番小さなサイズでも妖精である彼女からしたら大きいようです)ゴクゴクとあっという間に飲み干してしまいます。その姿はまさにお風呂上りに牛乳を飲み干すおじさんそのものでした。
「ぷはぁ……もう一杯!」
「ほら、ゆっくり飲め」
「ありがと!」
魔法を使ってコップに水を注いだオウサマにお礼を言った彼女はコップを抱えながらテーブルに座ってちびちびと飲み始めました。
「やっぱり、あなたのお水は美味しいですわね。今度、ボトルでくださる? 国のお花たちにも飲ませてあげたいの」
「お前の体では持って帰られないだろう。途中で落ちるぞ」
「何を言ってるの? 重たかったら飲みながら帰れば問題ないでしょう?」
「……それだと向こうに着く頃にはなくなっているな」
そんな会話をしながらもオウサマはノンの手元から目を離しません。彼が二人の話を聞きながらも真面目に文字の練習をしているからです。
「あら、文字の練習? まだ子供なのに努力家なのは高評価よ」
「うん、読み書きができたら便利だから教えてもらってるんだ」
テレーゼも状況を把握したのでしょう。コップを置いてトタトタとテーブルを走り、ノンが使用している黒板を覗き込みます。
「確かにそうね。読み書きは大事よ。悪い人たちに騙されずに済むもの。今は文字を書く練習?」
「うん、読みの方はお母さんが絵本を読んでくれたからほとんどできてたから」
「へぇ、そうなの。なら、ノンは人間の国出身なのね」
「……え?」
「……何?」
何気ないテレーゼの言葉。それに思わず、オウサマとノンは顔を上げました。どうして、そんなことが言えるのか。そんな表情を浮かべています。
「だって、人語の絵本を読んでくださったのでしょう? なら、普通に考えるなら人間の国に住んでたんじゃない? わざわざ赤ん坊に最初から他の言葉を教えないでしょう」
「……やはり、お前を呼んでよかった。思わぬ進歩だ」
「あら? お役に立てたのなら本望! もっと褒めていいのよ?」
キョトンとした様子で説明する彼女にオウサマが感心したように呟きました。もちろん、テレーゼがそれを聞き逃すはずもなく、オウサマの肩に飛び乗って肘で彼女の頬をぐりぐりします。
(でも、テレーゼの言ったとおりだ……)
確かに家にあった絵本はどれも人語で書かれていたものです。何度もエフィに読み聞かせしてもらったため、はっきりと覚えていました。
つまり、ノンは人間の国出身。テレーゼは文字の練習を見ただけでそれを言い当ててしまったのでした。
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