第63話 散歩
「――で、わたくしはあの精霊の頼みが断れず……仕方なく? もー、めっちゃ仕方なくね? ここに馳せ参じたってわけですの!」
「そうだったんだ……僕のためにありがとね」
あれからいつもより早く目が覚めたからか、オウサマの部屋には行かずに大木内を散歩することにしたノンはテレーゼから色々な話を聞きました。
やはり、彼女はノンを家に帰すため、オウサマに呼ばれたそうです。一週間もかかったのは運悪く今の森が彼女のいた場所から離れていたから、というシンプルな理由でした。
「まったく、妖精国からとんでもない離れてるところから呼び出すなんて……わたくしでなかったら断ってたわ! わたくし、とっても寛大だから? あんな風に頼まれたら断れないの!」
「うんうん、テレーゼは優しい妖精なんだね。妖精国ってどんなところなの?」
「お花がいっぱい!」
「わ、素敵な国だね」
「そうでしょうそうでしょう。この一週間、大変でしたの。聞いてくださる? あれはあ四日ほど前でしょうか。わたくしが国を出て獣国の上空を通り過ぎた時に――」
お花がいっぱいな国から文字通り、すっ飛んできてくれたのでしょう。それからテレーゼは身振り手振りを使って一週間にも及ぶ旅を楽しそうに話してくれました。ノン自身、人の話を聞くのは好きなのでうんうんと頷き、時には質問して会話を楽しみます。
おしゃべりな妖精と聞き上手な子供。そんな二人が揃った時点で散歩の時間が長くなるのは明白。気づけばいつもオウサマの部屋に行っていた時間を余裕で超えていました。
「あら、わたくしったら夢中になってお話ししてしまいましたわ。ノンくんは聞き上手なのね」
「そう? テレーゼが話し上手なだけかも?」
「もー、そうでもあるわね!」
褒められて嬉しいのか、腰をふりふりしながら前を飛ぶテレーゼの姿に思わず笑みを浮かべてしまう。子供のように無邪気な精霊もそうですが、妖精も嬉しいことがあったら無意識に踊ってしまうものなのでしょうか。
「あ、あの女の部屋に着きましたわ。お散歩はまた後でね」
「うん、やることやったらまた一緒に歩こうね」
「やること? ええ、そうね! まずはあなたの家がどこか特定しなくっちゃ!」
ノンは勉強会や包帯の練習をする、という意味で言ったのですが、そのあたりの事情はまだ知らないのかキョトンとするテレーゼですが、自分が呼ばれた目的を思い出し、気合を入れて大きな扉へ両手を押し当てます。
「ふんっ……ぐぎぎ……うおおおおおお」
「……」
「……開けて、くださる?」
「うん、いいよ」
さすがに一人で開けられなかったようでテレーゼは少しだけもじもじしながらノンを頼りました。彼は素直に頷いて魔力循環で強化されている体で扉を簡単に開けます。
「あら、簡単に開けられるのね……今どきの子供は力が強いのかしら?」
「そやつが規格外なだけだぞ、テレーゼ」
難なく扉を開けたノンを見て首を傾げるテレーゼ。それを否定したのは玉座で呆れた表情を浮かべているオウサマでした。
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