第62話 妖精
「あら、聞こえませんでした? 言葉は人語ですわよね?」
目の前でぱたぱたと半透明な丸い羽根を動かしながらノンの顔を覗く可愛らしい妖精。金髪縦ロールが目に眩しく、まさしくお嬢様と言わんばかりの見た目をしています。体の大きさは大人の拳大でしょうか? そんな小さなお嬢様が真っ赤なドレスを着て飛んでいる姿はまさにファンタジーでした。
「あ、わかりましたわ! きっと、まだ寝ぼけていらっしゃるのね? なら、改めて……すぅー、グッッッ――」
「起きてます! 起きてますから!」
大きく息を吸い、凄まじい声量で挨拶をしようとした彼女を慌てて止めます。鼓膜へのダメージをこれ以上受けたくなかったのでしょう。
「そうですか? それならいいのです! おはよう、ノンくん。とってもいい朝ね」
「あ、はい……って、僕の名前……」
お嬢様な妖精は太陽のような笑みを浮かべ、ノンの周囲を飛び回ります。ですが、それ以上にノンの名前を知っていることが気になったのでしょう。思わず、疑問を口に出してしまいました。
「ああ、それでしたらあの女から聞いただけです。珍しく、このわたくしを呼び出したと思ったらあなたのことを相談されましてね」
「もしかして、オウサマのお友達?」
オウサマが話していた試したい方法。それがこの妖精のことでしょうか? そう思って質問しましたが、何故かその本人はノンの言葉を聞いてピシリ、と硬直しています。
「……お、お友達、ですって?」
「あ、違い、ました?」
「ええ、ち、違いますわ! この高貴な妖精王たるわたくしがあんな青い精霊のお、おとも……お友達だなんて……違います、わよ? 少しもお友達とは思っておりませんので!」
――え、お友達に見えますの? それはとっても嬉しいですわー!
そんな副音声が聞こえてきそうなほどニヤニヤしながら妖精さんは形だけの否定をします。それを見てほんわかしそうになるノンでしたが聞き捨てならない言葉があったことに気づきました。
「妖精、王?」
「あら、そこに気づくとはあなた、天才でして? そう、このわたくしこそ!! 妖精王、テレーゼ! その人ですわ!」
ババン、と大きく胸を張って自己紹介をする妖精王、テレーゼ。その姿はちょっとしたことで威張る子供のようで、威厳のかけらもありません。
「……うん、よろしくね。テレーゼ」
「ええ、よろしくしてあげるわ! ねぇ、ノンくん! わたくしと共に朝の散歩に行きません? 今、とってもお散歩したい気分なの!」
「いいよー。あ、その前にちょっとやることあるから待っててね」
「はーい!」
だからでしょうか、ノンは自然と精霊たちと同じような扱いをしてしまいます。そして、神様へのお祈りを終えた後、子ども扱いされているとは全く気付いていないご機嫌なテレーゼと一緒に自室を後にしました。
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