第60話 通貨
包帯の練習を終えた後、本日二度目の勉強会です。ですが、午前中のそれとは違い、午後に教えてもらうのは基本的にこの世界の常識でした。
例えば、暦。予想していたことですが、この世界は地球と同じように丸い惑星らしく、自転しつつ、恒星の周囲を公転しています。そのため、季節も存在していました。
「この森は瞬間移動するから季節は飛んだ先に左右される。春は暖かく、夏は暑い。秋は涼しくなり、冬は寒い。そう覚えればいい」
簡潔に季節の説明をされましたがそれも地球と同じような気候のようです。確かに家にいた頃、何度か季節が移り替わったのを覚えていたので彼女の話は本当でしょう。ノンは暖かい季節――春生まれのようでした。
そして、なにより驚いたのがこの世界でも月日は十二か月であり、一か月は三十日。計、三百六十日で一年が巡るようです。数日ほど違いますし、閏年もありませんがほぼ同じ数え方だったため、彼は心底驚いてしまいました。
(鉛筆とか黒板とかあるし、もしかしてこの世界は地球によく似てるのかも?)
魔法、という明らかな違いはあるものの、それ以外で似通った部分が多いため、いつしかノンはそう考えるようになりました。
「今日は通貨について話そう」
「通貨……お金ですか?」
「ああ、お前はすでに簡単な計算はできるみたいだからな。それに物の価値は生きるのに覚えておかなければならない必須項目だ。早めに勉強しておいて損はないだろう」
そう言いながらオウサマがテーブルの上に一枚ずつコインを置いていきます。置かれたコインの数は七。通貨は全部で七種類のようです。
「お金の単位はウォル。この小さな茶色いのは『銅銭貨』。一番小さな単位だから一ウォルだな。次は『銅貨』。銅銭貨の十倍の価値があるため、十ウォル」
一ウォルが一円と比べてどれほどの価値があるかわかりませんが、オウサマはどんどん先に進んでいきます。
「小さな銀色の硬貨は『銀銭貨』、百ウォル。こっちの『銀貨』は千ウォル。こんな風に十倍ずつ価値が高くなっていく。じゃあ、この小さな金色の硬貨はどれほどの価値だと思う?」
「千ウォルの十倍なので一万ウォルですか?」
「正解だ。名前は『金銭貨』という。数字の仕組みもすでに知っているとは……計算に関してはさらっとおさらいする程度でいいかもしれんな」
そう言いながらもオウサマは金銭貨よりも大きい金色の硬貨をノンへ投げ渡します。慌ててそれをキャッチしますが、予想以上に重くて少しだけ驚いてしまいました。
「それが『金貨』。十万ウォルだ。そして、最後に……『白金貨』、百万ウォルの価値がある。この世で最も価値のある通貨だ」
「おー……」
金貨をテーブルに置いた後、ノンは白っぽい硬貨に目が奪われます。
「そうだな……四人暮らしの一般家庭なら一月、だいたい十万ウォルで生活していたはずだ。もちろん、お前の家は裕福だっただろうからもっと資産はあったと思うが」
ノンは前世で買い物の経験はありますが相場にそこまで詳しくありません。ですが、とりあえず贅沢をしなければ二万ウォルから三万ウォルで一か月間、生活を続けることができると覚えておけばいいと結論付けます。子供なら食費は大人よりも抑えられるのでもっと節約できるでしょう。
「この先、宿に泊まることもあるだろう。だいたいの相場は……確か銀貨一枚くらいか? それより安かったらサービスに期待しない方がいい」
そう言ってオウサマは七枚の硬貨を仕舞い、『今日はこれぐらいにしておこう』と締めくくります。
「……」
片づけをしている彼女の背中をノンはジッと見つめていました。
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