第59話 変化
ノンが精霊の国に来て早くも一週間が過ぎました。最初は慣れなかったここの生活も今ではすっかりルーティンもでき、家族に会えないことを除けば充実した日々を過ごしています。
「では、今日もよろしく頼む」
「はい、お願いします!」
まず、朝食を食べた後、オウサマと共に文字の練習です。この世界の言葉はひらがな、カタカナ、漢字が混在する日本語とは違い、一種類の文字を組み合わせる――謂わば、アルファベットと同じような使い方をするようでした。日本人だった彼にとって文字が一種類しかない言語は少し慣れませんが覚える文字は単純に少ないため、すでに書き方をマスターしつつあります。
なお、言語のルールを聞いた時、文字は一種類しかないのか、と尋ねたところ、オウサマに首を傾げられ、日本語について軽く説明しました。
『文字が三種類……なんだ、その言語は。常に暗号でも使っているのか?』
それを聞いたオウサマがドン引きした様子でそう呟いていたのは記憶に新しく、日本語はやはり、異世界でも難しい言語に分類されるのだとノンは確信しました。
「ひとまず、これが基本となる文字だ。これらを組み合わせて単語を作っていく。接続詞や助動詞など単語を繋ぐための単語もあるからどんどん難しくなっていくぞ」
「わかりました!」
スルスルと言葉を覚えるノンに彼女は特に反応することもなく、今後のカリキュラムを説明してくれます。彼は最初から規格外な部分の多いため、これぐらいではもう気にならなくなったのでしょう。
そんなこともあり、二人は夢中になって文字の練習をします。そのため、最近では午前中いっぱいまで時間を使い、その後すぐに昼食にする、という流れになっていました。
昼食が終わった後は運動の時間――そう、白い包帯を使う練習です。
すでにある程度は使えるようになっていますがまだぎこちない部分があり、実戦で使えるかと言われたらまだまだ。
「よっ、ほっ」
大木の最下層まで降りた彼は精霊たちに見守られながら白い包帯に魔力を通し、思うままに操ります。時には伸ばし、時には軌道を曲げ、時には硬質化させる。その流れをランダムに、スムーズに行えるように鍛錬を続けていました。
「伸ばす時、僅かに長い。それでは魔力が無駄になる。正確に伸ばせ」
「はい!」
包帯の練習もオウサマがコーチとして指導してくれています。ノンの動きを観察し、的確なアドバイスを投げてくれるため、たった一週間でここまで上手くなりました。本当に彼女には感謝してもしきれません。
「軌道制御も甘いぞ。それでは物を掴もうとした時、するりと抜けてしまう。先端のイメージがまだ曖昧なのだろう。しっかりとイメージしろ」
最初は包帯で戦うのを渋っていましたが、今ではすっかりノンが目指す戦闘スタイルを気に入り、指導にも力が入っています。ノンもオウサマの熱意に応えたいため、どんどん力を付けていきました。
「……よし。今日はこんなものだろう。明日は硬質化を中心に練習しよう」
「はい、師匠!」
「シショウではない、オウサマだ」
つきっきりで練習に付き合ってくれるため、ノリで師匠と呼びますがオウサマには冗談は通じず、訂正されてしまいます。ですが、こんなやり取りでも嬉しく思うのはノンが彼女にすっかり懐いている証拠でしょう。
「では、少し休憩した後、午後の勉強会だ」
「お願いします、先生!」
「センセイではない、オウサマだ」
そして、二人は螺旋階段を昇り、彼女の部屋を目指します。これから、また勉強の時間です。
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