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英雄くんはおうちに帰りたい  作者: ホッシー@VTuber
第一章 英雄くんはおうちに帰りたい
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第58話 未知

「そう、ですか……」


 原因不明。オウサマは確かにそう言いました。てっきり、悪い話が飛んでくること思っていたのでホッと安堵のため息を吐きます。


「違うぞ、ノン」

「ッ――」


 ですが、そんな彼の心の緩みを窘めるようにオウサマはピシャリと言い放ちました。その鋭さに思わずノンは背筋を伸ばしてしまいます。


「わからないほど恐ろしいものはない。未知ほど警戒しなければならないものはない」


 彼女の言葉には異様な重さがありました。だからこそ、ノンも自然と彼女の声に耳を傾けます。


「相手の悪意を知らなければ騙される。相手の思惑に気づかなければ隙を突かれる。相手の出方を知らなければ遅れをとる。それが積み重なった時、どんなにお前が強くても足元をすくわれる」

「……」

「いいか、ノン。もう一度、言うぞ。未知を恐れろ。わからないことがあれば知ろうとしろ。『まぁ、いいか』と疑問を後回しにするな。それを怠れば、思いもよらないところで未知はお前に牙をむく」


 どうしてでしょうか。オウサマはノンだけでなく、自分にも言い聞かせるように何度もその言葉を繰り返しました。


「よく覚えておけ」

「……わかりました」


 そんな言葉で締めくくられた忠告をノンはゆっくりと噛みしめ、飲み込みます。


 ――未知を恐れろ。


 その言葉を彼は一生、忘れないでしょう。それほど強烈に彼の心へ刻み込まれました。刻まれるほどにオウサマの言葉には力が宿っていたからです。


「……さて、話を戻そう」


 少しだけ気まずい空気を感じ取ったのでしょうか、咳払いを一つした後にオウサマが話題を変えました。


「ノンの魔力量が馬鹿げていることがわかった今、その包帯を使いこなす姿を見たくなった。そのためならアドバイスするし、練習相手にもなる。遠慮なく声をかけてくれ」

「っ! はい、ありがとうございます!」


 ひとまず、オウサマの協力を得られたことにノンは嬉しくなります。そして、この日は魔力測定が勉強会となり、解散することになったのでした。



 夕食を終えた後、あとは寝るだけとなったノンはベッドに横になりながら天井を見上げていました。その視界の端ではうねうねと白い包帯が伸び縮みを繰り返しています。昨日から始めた包帯を操るトレーニングの一環です。


 魔力量が多いと判明し、白い包帯を満足に操れると太鼓判を貰えたのは喜ばしいことです。ですが、ノンは浮かない表情をしていました。


(多いのはよかったけど……そんなに多いのかなぁ)


 オウサマの様子を見るに彼の魔力量は本当に規格外なのでしょう。しかし、ノン自身、その自覚がありませんでした。


「……よし」


 そこで彼は久しぶりに体の奥底へ潜ります。かれこれ一年ぶりでしょうか。久しぶりのダイブですが、感覚は忘れていなかったようで彼の意識は順調に体の奥へと向かいます。


(……これ、は)


 そして、気づいたのです。たった一年。それだけで彼の魔力量が比較するまでもなく、膨れ上がっていました。赤ん坊の頃から魔力操作や魔力循環を行い、その過程で気づかぬうちに魔力量を増やしていましたが短時間でこれほど成長するのはあまりに異常です。




 ――未知を恐れろ。




 不意にオウサマの言葉を思い出しました。


 彼の中で魔力がこれほど増えていたのにそれに一切、気づくことなく生活を送っていた。まだ魔法や魔力についてほとんど知らない彼でもそれが異常だとすぐにわかります。


 魔力が増えた原因。一体、彼の体で何が起きたのでしょう。


 その正体がわからない。そんな未知にノンは背筋が凍り付く感覚に一つ、身震いをしました。

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