第56話 異常
「ほう……ほうほうほう」
その日の夕食時、ノンはあれから色々と考えた白い包帯の使い方を話しました。それを聞いたオウサマはどこか目を輝かせ、何度も頷きます。
「なるほどなるほど。それなら子供であるお前でも十分に戦えそうだ。むしろ、体が小さいからより厄介かもしれん」
最初こそ『包帯で戦えるわけない』と興味なさげに聞いていた彼女でしたが、今ではノン以上に乗り気です。その反応が他の精霊と同じように子供っぽくて彼女も精霊なのだと改めて思いました。
「まぁ、練習は必要なので……大木の最下層の広場を使ってもいいですか?」
「ああ、構わない。精霊たちも頼めば練習相手になってくれるだろう」
「練習相手?」
「そうだ。その使い方なら大木内を自由に動き回れるだろう? それなら鬼ごっこでもしてやれ。精霊たちも楽しいし、練習にもなる」
彼女の言う通り、ノンが考えた使い方ならば飛んでいる精霊たち相手でも鬼ごっこが成立しそうでした。そこまでのレベルになるまで練習は必須ですが、包帯を使う経験を積むにはもってこいです。
「わかりました。十分に練習した後、精霊たちを誘ってみます」
「そうしてやれ……それでどうする? 勉強会の頻度を減らすか?」
ノンのタスクに『包帯を使う練習』が追加されたため、オウサマは彼の体を心配しているようです。ノンは子供。あまり根を詰め過ぎた場合、簡単に倒れてしまうでしょう。
「……ふふ、実は今も練習してるんです」
「……何?」
どこかもったいぶった言い回しでそう告げるノンに彼女は目を見開きました。彼女の前に座って夕食を食べている彼の手にはフォークが握られており、包帯はどこにも見当たりません。ましてや、あの白い包帯を使うには魔力を注ぐ必要があります。そのはずなのに彼からは相変わらず一切の魔力を感じませんでした。
「ほら、これ見てください」
悪戯が成功した子供のように笑みを浮かべたノンはオウサマから貰った服を捲ります。子供特有のぽっかりとした可愛らしいはずの腹部には大怪我した時のように白い包帯がぐるぐる巻きに巻かれていました。
「それは……あの包帯か?」
「はい、これ……魔力を通して巻いてるんです!」
「……は?」
彼の言葉をオウサマは理解できませんでした。包帯は巻いた後、両端を結びます。そうすることで傷口を塞ぐは常識でした。
ですが、彼の話が本当であれば常に魔力を包帯に注ぎながら体に巻き付けていることになります。そして、その異常性を彼は全く気づいていな様子でした。
「魔力は、持つのか?」
「え? そうですね、この状態を維持するだけなら全然余裕ですけど……」
「……明日、お前の魔力量を測定する」
「へ?」
いきなりの提案に何も気づいていないノンはキョトンとします。
ですが、オウサマの反応は当たり前でした。この白い包帯は体に巻き付けようとするだけで普通の人なら一瞬で魔力が枯渇するほどの大喰らいなのですから。
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