第55話 使い方
魔力によって自由自在に操れる包帯を手に入れたノンは早速、自室で包帯の使い方を考えていました。
オウサマの話ではこの包帯は注いだ魔力量によって伸びたり、動かせたり、頑丈になるそうです。実際に巨大な斧を絡め取ったことのある彼はその言葉は嘘ではないと知っていました。
(だからって武器にするのは難しいよね)
今は精霊の国に滞在しているノンですが、家に帰る方法がなかった場合、自力で帰るしかありません。きっと、途方もない冒険になるでしょう。その時、武器の一つぐらいなければ安心して旅に出られません。
ですが、ノンには肉体を強化できる魔力循環があります。まだ本格的に練習はしていませんがオウサマの話を信じるのなら一般人相手は難なくできるでしょう。
しかし、戦う相手は普通の人間とは限りません。盗賊のような相手なら武器を持っているのは当たり前。魔法を使ってくる可能性だってあります。森の中を歩けば獣に襲われるかもしれません。
色々な可能性を考慮すれば魔力循環だけでは心もとない。だからこそ、この包帯を使って戦う方法を考える必要があります。
「……よし」
とりあえず、使ってみましょう。ノンは白い包帯に少しだけ魔力を注いでみます。すると、包帯は力を得たように仄かに輝きました。
「お?」
そして、彼は魔力を注ぐ――いえ、通した瞬間、白い包帯が体の一部になったような気がしました。そのまま、手を上げるようなイメージで包帯を動かします。
「おー」
『よっ』と言わんばかりに包帯の先端が持ち上がり、思わず感嘆の声を漏らしてしまいました。包帯は予想よりも簡単に動かせそうです。
次に包帯の先端が伸びるイメージを浮かべると持ち上がった先端が勢いよく伸びて天井に激突。包帯自体は柔らかい材質なので突き刺さることはありませんでしたが、もう少し硬質な材質であれば刺さっていたと思えるほどの勢いでした。
「……」
最後に剣のように鋭く、硬くなるようにイメージをします。すると、天井まで伸びていた包帯から微かにカチリ、と金属同士が擦れるような音が響きました。試しにノックするように包帯を叩いてみると明らかに硬くなっています。これなら即席の刃物として使えるでしょう。
色々試してみましたが思いのほか悪くない、とノンは笑みを浮かべました。
まず、想像以上に包帯の扱いが簡単です。もう少し練習すれば手足のように使える。そう、確信できるほどには容易です。
そして、オウサマの話では複雑な動きをするためにはそれ相応の魔力を消費すると言っていましたが、実際の消費量はノンの魔力総量と比較すると微々たるものだったこと。まだ、お試しで動かしただけですが、そもそも包帯でできる動きは高が知れています。
伸ばす、動かす、硬くする。たったそれだけです。
もちろん、天を突き破るほど伸ばしたり、龍を形作ったり、大地を割くほど硬くすれば話は違うかもしれませんが、戦う上でそこまで大げさな動きをする必要はありません。
「うん、いけるかも」
包帯を使った戦い方。練習は必要になりますが、不可能ではないとわかったノンは少しだけ楽しみになりました。
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