第54話 包帯
「なるほどなぁ」
場所は変わってオウサマの部屋。そこで白い包帯を持ちながら彼女はうんうんと頷きました。
「どうでした?」
「ああ、正直に言えばそこまでのものではなかった。おそらく、あの巨大な斧の方が貴重だろう」
そう言いながらノンへ包帯を差し出しました。彼女が使用する【ステータス】は人間だけでなく、道具の詳細も見ることができ、ノンが見つけた白い包帯を鑑定したのです。
「それは魔力を注ぐことによって伸ばしたり、動かしたり、頑丈になる包帯だ」
「……それだけですか?」
「そう、それだけだ。複雑な動きをしようとすればするほど必要な魔力量が増えるため、使い勝手がいいとは言えんな」
「……」
オウサマの解説を聞き終えたノンは受け取った包帯を見下ろします。相変わらず、新品のような白さを放つそれは彼の命を救ってくれました。
「そんなに使いにくいんですか?」
「私からしてみれば咄嗟に巨大な斧を絡め取れたことに驚きだ。それを操るためには明確なイメージとそれに見合った魔力が必要となる。土壇場でできることではない」
どこか呆れたような表情を浮かべるオウサマでしたが、ノンはあまり納得していないようでうーんと考え込みます。
彼女の言う通り、あの時――白い包帯に魔力を注いだ時、彼は無我夢中でした。この魔道具の効果など知らない彼からしてみれば包帯をどのように動かす、と考えるわけもなく、『どうにかなれー!』と藁にも縋る気持ちで取った行動です。
ですが、その行動はあの状況では最適解でした。ノンの魔力を受け取った白い包帯は生きたように脈動し、斧をしっかりと絡め取ったのです。
あの感覚は今でも思い出せます。なんといえばいいのでしょう。しっくりきた。そう、表現するのが正しいような気がしました。
「それで、どうする? もう少し探すか?」
「……いえ、これにします」
前世で散々お世話になった包帯。それを今度は武器として使う。ありきたりな言葉ではありますがノンは少しだけ運命を感じてしまったのです。まだ、どんな風に使うか決めてはいませんが悪いことにはならない。そう確信するほどこの包帯を気に入っているようでした。
「まぁ……お前がそれでいいなら構わないが」
白い包帯に運命を感じているノンとは裏腹にオウサマはどこかガッカリした様子でため息を吐きました。宝物庫に入る前、ノンが魔道具を使って戦うところを想像したと言っていたのでもっと格好いい武器を選んでほしかったのかもしれません。
「……オウサマ」
「なんだ?」
「僕、まだ子供だから剣とか大きい武器は扱えないです」
そんな彼女にノンは当たり前のことを告げます。どんなに魔力循環で肉体を強化したところで体の大きさは変わりません。一般的な武器は子供であるノンには大きすぎるため、振り回されるのが関の山です。
「……それもそうだな」
それでもなお、格好いい武器を振り回すノンを諦めきれないのか、オウサマは拗ねた様子で渋々、頷くのでした。
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