第53話 相棒
ノンがゴミの中から見つけた白くて細長い布。いえ、布というよりも包帯と呼んだ方がいいでしょう。
それは一見、普通の包帯です。不思議なところといえばこんなゴミにまみれた中に放置されていたのに汚れが見当たらず、新品のように真っ白であることぐらいでしょうか。
(なんだろう、気になる……)
しかし、何故か、ノンはそれから目を離せません。だからでしょうか、彼はその包帯の先端を掴み、ゴミの中から引っ張り上げようとします。
「ッ!? ノン、止めろ!」
その瞬間、少し離れた場所で見守っていたオウサマが声を荒げました。その声にハッとして顔を上げるとそこにはガラクタの山。
どうやら、探索に夢中になるあまり、いつの間にか部屋の奥まで入り込んでしまっていいたようです。白い包帯はガラクタの山に埋まっており、それを引っ張った結果、ガラクタの山のバランスが崩れてしまいました。
「このっ……くっ」
慌ててオウサマが魔法を使い、ガラクタの山を吹き飛ばそうとします。ですが、ノンと山の距離があまりに近く、吹き飛ばせばその流れ弾が彼に当たる可能性がありました。そのせいで一瞬だけ魔法の行使をためらってしまいます。
その一瞬が命取りでした。
「やばっ……ちょっ!?」
ガラクタの山の崩壊が始まってしまったのです。ノンも慌ててその場から離れようと足に力を入れました。ですが、足元はガラクタの床。隙間が多く、彼の小さな足はその隙間にハマってしまったのです。
「ノン!」
それを見たオウサマが待機していた魔法を放ちました。ノンの体よりも大きな水球がガラクタの山へ直撃し、その大半を吹き飛ばします。
ですが、不運は続きます。彼女が吹き飛ばしたガラクタの中から巨大な斧がクルクルと回転しながらノンに向かって落ちてきました。このままでは彼に直撃してしまうでしょう。
「ぐっ、もう一発!」
オウサマは続けて水の魔法を放ちました。今度は球状ではなく、細長く貫通性の高い形状をしています。
「なっ!?」
しかし、彼女の魔法が斧へぶつかった瞬間、甲高い音と共に魔法をかき消してしまいました。どうやら、あの斧には魔法無効化の強化が施されていたようです。まさかここで本物を引くとは思わず、オウサマは顔を青ざめました。
「ノン、逃げろ!」
魔法による撃墜は不可能。そう判断した彼女は彼へ駆け寄りながら叫びました。ですが、ノンと彼女の距離はそれなりに離れており、斧が落ちてくる前に救出するのは絶望的です。
「そう、言われても!」
ノンはノンで必死にガラクタの床から足を引っこ抜こうとしていますが深くまで入り込んでしまったらしく、抜け出せません。もしかしたら無意識のうちに魔力循環で脚力を強化してしまったのでしょうか。そのせいでガラクタの床を強く踏みしめ、ズボリとハマってしまったのです。
(どうする!?)
斧が落ちてくるまで時間はありません。このままでは自分は斧によって真っ二つにされ、死んでしまいます。何度も死に勝利してきた彼ですが、さすがに物理的に二つにされてしまったら打つ手はありません。
「ッ――」
そして、ふと目に入ったのはあの白い包帯。ゴミの中にあったのに汚れらしい汚れは見当たらず、新品のようにそこに在り続けるそれはジッと何かを待っているようでした。
(お願い、どうにかなって!!)
咄嗟に彼はそれを掴み、魔力操作を駆使してそれに魔力を注ぎ込みました。そう、図らずしも彼はこの時、魔力循環と魔力操作を同時に操ったのです。
そして、白い包帯は『待っていました!』と言わんばかりに仄かに輝きました。
「いっっっけえええ!」
絶叫しながら腕を振り上げます。それに釣られるように白い包帯がガラクタの中から飛び出し、真上へと突き上げられました。その白い軌跡は降ってくる斧へと激突。そのまま、それをぐるぐる巻きにしてしまいました。
「……へ?」
「これ、は……」
白い包帯に巻きつけられた斧がゆっくりと下降してくる中、ノンとオウサマはその光景を茫然と見上げます。
そう、これこそ、彼が死ぬその時まで傍で支えることとなる魔道具との出会いでした。
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