第51話 宝物庫
ノンはオウサマの後に続き、大木の中を歩きます。向かっているのは彼の部屋とは逆方向。こちら側へは来たことがないので彼は興味深そうに周囲を見渡します。
(あんまり変わらないな)
しかし、彼の期待とは裏腹に周囲の光景に変わったところはありませんでした。オウサマの言葉を信じるならばこの大木の内部は魔法によって空間が歪み、通常よりも狭い状態になっているようです。そのため、よく観察すれば何かわかるかも、と考えていましたが魔法についてほとんど何も知らない彼では何もわかりませんでした。
「ここだ」
「お、おー」
それなりに歩いた後、オウサマは一つの扉の前で立ち止まります。彼女の部屋よりも大きなそれにノンは少しだけ戸惑いながら声を漏らしました。
「あの、ここは?」
「宝物庫……という名のガラクタの置き場だ」
ノンの問いに短く答えた後、彼女は扉を開けて中へ入ります。彼もその後に続きました。
「……」
宝物庫と呼ばれた部屋は一言で言い表すならまさにガラクタの山。ボロボロの剣、異様に光を反射する盾、何に使うかわからない容器など、一目でわかる物もあれば見てもわからない物まで。色々なものが乱雑に置かれていました。部屋の奥ではそんなガラクタが山積みになっており、いつ雪崩が起きてしまうか少しだけひやひやします。
「昨日も話したがここに来た子供たちにこの中から好きなものを持って行っていいと言っている。まぁ、持っていく子もいれば気に入ったものがなく、諦めてしまう子もいるがな」
「……あの、どうして僕をここに?」
「お前もここに来た子供の一人だし、昨日は誕生日だったからな。誕生日プレゼントの代わりに何かを送ろうとは思っていた」
そう言いながらオウサマは近くに落ちていた錆だらけの鍋を持ち上げて天井から吊るされたシャンデリアにかざします。その拍子に錆が落ちたのでしょうか。彼女はすぐに顔をしかめて鍋を放り投げます。宝物庫にカラン、という音が響き渡りました。
「本当であればもう少し後で渡すつもりだった。だが、魔力操作の話を聞き、少しだけ考えが変わった」
「どうしてですか?」
「お前なら魔力循環をしながら魔道具に魔力を注げると思ったからだ」
「魔道具に魔力を?」
思い出すのはジェードが壁の装置に魔力を流し、部屋の明かりを点けた時とルーが食事を作っている風景です。てっきり、魔力を放出する器官が塞がっているため、魔道具も使えないものだと思っていたため、彼女の言葉は寝耳に水でした。
「ああ、魔道具に魔力を注ぐ時、魔力を放出することはない。そうでなければ『吸魔の指輪』に魔力を吸われるわけがないからな」
「なるほど……確かにそうですね」
「だから、いずれ魔道具の使い方も教える予定だった。さっきの話を聞くまではな」
オウサマはクルリとノンへと振り返り、楽しそうな笑みを浮かべました。まるで、子供の成長を楽しみにする母親のような笑み。それをノンは前世でも、今世でも見たことがあります。
「選べ、ノン。もしかしたらこの中にお前の相棒となる奴が紛れているかもしれないぞ」
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