第50話 恩恵
「とにかくお前の体は魔法を使えなくなった代わりに魔力循環に適した体になった。これだけは間違いない」
オウサマの言葉にノンは素直に頷きました。魔法が使えなくなった事実はまだ受け入れたとはいえませんがそれ以上に魔力循環のことが気になるからです。
「じゃあ、本題に入ろう。魔力循環の恩恵についてだが……すでにお前はその恩恵を受けている」
「え? そうなんですか?」
魔力循環による恩恵。そう言われてもあまりピンと来ませんでした。思い浮かぶのは魔力を動かすのが上手くなったのと魔力量が増えたことでしょうか。
「ああ、精霊の国に初めて来た時、あの螺旋階段を昇っただろう?」
「はい、とても長い階段ですよね?」
「そうだ。大木の内部は魔法によって空間が湾曲し、普通よりも短い距離を昇るだけで最上階へと辿り着く。だが、それでも子供にあの階段を昇りきれると思うか?」
「……あ」
魔法による空間の湾曲。昨日、オウサマの部屋がいつもよりも広くなったのはそれが原因なのでしょう。しかし、その事実を確かめる前にノンは気づいてしまいました。彼女の言う通り、子供の体力であの螺旋階段を昇りきるのはほぼ不可能に近かったからです
「普通であれば精霊たちが私を呼びに来る。そして、階段下まで私が移動して子供を出迎えるようにしていた。だが、お前はあの階段を昇りきり、あまつさえ平気な顔で部屋に顔を出した。それはなんでだと思う?」
「……魔力循環」
「そう、それだ。魔力循環は体の内側から支え、体力の消費、腕力、脚力などの身体能力の向上……そして、なにより体そのものを頑丈にする」
彼女が告げた魔力循環の恩恵――それは肉体強化そのもの。魔法が使えない代わりにノンは魔力を使い、肉体を強化することができるようになったのです。
「だが、魔力循環は扱う者を選ぶがお前以外にも使える人はいる。特に冒険者の中に魔法の才はないが魔力量だけは桁違いに多い奴がよく魔力循環で体を強化して戦っているな」
「……でも、僕の場合、普通よりも魔力消費量は少ないから普通よりも長い時間、魔力循環を使用できるんですね」
「いや、それだけではない。外に漏れる魔力が極端に少ないから比較するのもバカバカしくなるほど効率がいい。意識せずとも魔力を回し、螺旋階段を昇りきってしまうほどにな」
その言葉にノンは思わず生唾を飲み込みました。魔力循環にも意味はあると聞き、少しは期待していましたが彼の予想以上の恩恵に衝撃を受けたのです。
「……あの、一つ質問があります」
「なんだ?」
「魔力循環をしながら魔力操作をした場合、どうなりますか?」
昨日、誕生日パーティーが始まる前に考えていたことを聞いてみます。果たして、どんな答えが返ってくるのか。
「……どういうことだ?」
ですが、返ってきたのは困惑でした。予想外の反応にノンも戸惑ってしまいます。
「いや、魔力を回しながら一部に魔力を集中させる、みたいな……」
「……できるのか? いや、そうか。普通であれば魔力循環をするだけでせいいっぱいだから誰も同時に魔力操作をしようと思わなかったのか」
ブツブツと呟くオウサマにノンは固唾を飲んで見守ることにしました。思いつきの案でしたがここまで彼女を考えさせるとは思わなかったのです。
「そうだな、ついてきてくれ」
少しの間、沈黙が続いた後、オウサマは立ち上がってそう言いました。
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