第49話 循環
午前中、文字の練習をしたノンは昼食を挟み、少しだけ精霊たちと遊んだ(ご機嫌取りともいう)後、改めてオウサマの部屋を訪れました。
「では、午後の勉強会を始める。体調に問題はないか?」
「はい、元気です!」
「いい返事だ。では……そうだな。お前にとって一番重要になるであろう。今日は魔力循環について話そう」
「ッ……お願いします!」
ノンは『待ってました!』と言わんばかりに頭を下げます。一日に勉強会を二回開いてもらうようにお願いしたのは知識を得る機会を増やすため。特に魔力循環のことは早く聞きたかったのでわくわくした様子でオウサマの言葉を待ちます。
「さて、魔力循環はお前が以前、言ったように体の中で魔力を循環させる高等技術だ」
「え? 高等技術?」
予想外の展開にノンは早速、キョトンとしてしまいました。彼にとって魔力循環は生活の一部。意識せずとも勝手に循環させてしまうほどに体に馴染んでいます。
「ああ、そうだ。普通の人間は魔力循環を習得するのにかなりの時間を要する。それは何故かわかるか?」
「いえ、わからないです」
「単純に魔力の消費が激しいからだ」
「? それは、知ってますけど……そんなに多いんですか?」
最初の頃、魔力を操作しようとする魔力が湯水のように消えていましたが、めげずに続けた結果、今ではぐるぐる回しても平気になりました。そのため、彼の中で魔力循環はそこまで難しい技術とは思えなかったのです。
「そうだな……筒を思い浮かべてほしい」
「筒?」
オウサマの指示でノンは前世でいう竹筒を思い浮かべました。竹筒を選んだ理由は特にありません。
「その筒に水を流すとする。そうすると筒は入り口から出口に向かって真っすぐ流れる。そうだな?」
「はい、そこまではわかります」
「では、その筒の側面に穴が開いていた場合、どうなる?」
「穴が……そこから水が漏れちゃいます」
「それと同じ現象が人間でも起こる。そう、魔法を使うために魔力を放出する器官があるからだ。それも循環の勢いが強ければ強いほど流れ出る魔力が増える」
竹筒を使った水鉄砲があります。もし、竹筒に穴が開いていなければ水は勢いよく出口から飛び出しますが、穴が開いていた場合、そこから一定量の水が溢れてしまうでしょう。更に水圧が強ければその溢れる水の量と勢いも増します。
「じゃあ、僕が簡単にできるのは……」
「ああ、お前に魔力を放出する器官がないからだ。そのおかげで無駄な消費を抑え、効率よく魔力を循環することができる」
「そう、だったんですね……でも、最初の頃は魔力の消費は激しかったような……」
「きっと、その頃は放出する器官が塞がっていなかったのだろう。だが……」
そこでオウサマは不自然に言葉を区切り、少しだけ考えるような仕草をします。何だろうと首を傾げていると彼の様子に気づいた彼女はハッとして咳払いを一つしました。
「いや、放出する器官が塞がった理由がわからなくてな……【ステータス】を使ったことがあるなら生まれた時から塞がっていたわけではない。だが、魔力循環に体が順応するにはあまりに早すぎる。少なくとも放出する器官が完全に塞がった人間を私は見たことがない」
「……つまり?」
「つまり……お前の何かが体を魔力循環に適応させた。何かはスキルなのか、体質なのか。はたまた別の要因なのか……それは定かではないがな」
オウサマはそう締めくくり、肩を竦めます。魔力循環に適した体への変質。その原因は不明ですが、今のところ、それを知る手段はなさそうです。
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