第47話 祝福
「やっと思い出したようだな」
声を荒げて驚くノンにオウサマは苦笑を浮かべました。この国に来た経緯を話した時、誕生日の話を少しだけした覚えがあります。それを彼女は覚えていたのでしょう。
「人間は誕生日を盛大にお祝いするのだろう?」
「それは、まぁ、はい」
家庭にもよりますが、少なくともノンの家は彼の誕生日を全力でお祝いしてくれました。なので、特に否定もせずに頷きます。
「泣いたからといってこの状況を受け入れられるわけじゃない。ましてや、お前はまだ子供だ。少しずつでいい。ゆっくりでいいから気持ちの整理をしてほしい」
「気持ちの、整理……」
確かに昨日の夜、大泣きしたおかげで落ち着きは取り戻しました。ですが、不安や寂しさが完全になくなったわけではなりません。
前世で彼は数年にも及ぶ闘病生活を強いられました。やりたいこと、当たり前のようにできることすらまともにできない。そんな状況に置かれ続けた彼はいつの間にかどんなに嫌でもそれを受け入れてしまう癖がついてしまいました。人はそれを『諦め』と呼びます。
前世で何度も医者に、看護師に、幼馴染に、彼女の家族に『大丈夫?』と聞かれました。そして、決まって彼はこう答えるのです。
――大丈夫だよ、と。
どうせ、辛いと伝えても何も変わらない。むしろ、伝えたら相手に心配をかけてしまう。その方が嫌だから『大丈夫』と笑おう。
そして、いつからかその言葉が彼の口癖になっていたのです。
精霊に連れて来られたのだから仕方ない。家に帰る方法がないのだから仕方ない。家族に会えないのは仕方ない。
だから、諦めて精霊の国に留まるしかない。だって、そうするしかないのだから。
確かにどうすることもできない状況というものはあります。子供である彼は特にできないことは多く、今回のようにそういった状況に陥りやすいでしょう。
ですが、仕方ないからといって納得できるわけがありません。しょうがないと飲み込めるわけがありません。
だって、人間には感情というものがあるのですから。
「……」
「昨日の今日で全てを受け入れられるはずがない。人間ではない私たちでもそれは知っている。わかっている。だから、こうやって何度でもお前を元気づけよう。それが私たちにできるせいいっぱいの償いだ」
オウサマの言葉にノンは改めて部屋を見渡しました。
精霊たちが嬉しそうに踊り、その光に照らされた飾りつけが宝石のように輝き、ノンを温かく受け入れようとしています。
これは全てノンの誕生日を――産まれてきたことを祝福するためのもの。出会いは決して良いものではありませんでした。
ですが、この騒動を思い出すことがあったのなら、『あんなこともあったな』と少しでも笑えるように、少しでも苦しいものではないように、少しでも輝かしい想い出になるように。
そんな想いが込められた精霊たちが丹精込めて用意した彼の誕生祭。
「……そう、ですね」
気づけばノンはオウサマの言葉に頷いていました。
全てを受け入れてしまう癖。きっと、前世で少しだけ辛い人生を歩んでしまった彼がそれを直すのには少し時間がかかってしまうでしょう。
「ありがとう、オウサマ。元気が出たよ」
「……ああ、そうか。それならよかった」
でも、もし、この癖が直った時――苦しいものは苦しいと素直に言えるようになった時、きっと、彼はこの光景を思い出すでしょう。
(前を向こう。家族に会えないのは寂しいけど……その分、今を楽しもう。そして、家族と再会できた時、たくさんの思い出を話すんだ)
だって、確かにこの日から彼の考え方は変わったのですから。
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