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第2話 現状

 むかーし、むかし。そのまた昔。これはまだ魔王がこの世に存在し、人間と争っていた頃のお話。

 二人の男女が愛を育み、一人の男の子が誕生しました。

 その男の子は少しばかり他の子どもと違うところがありました。

 一つは前世の記憶があったこと。そして、もう一つは女神■■■さまの■愛を受けていたことです。

 彼の前世は決して幸せと呼べるものではありませんでした。しかし、前世を懸命に生き抜いたからこそ、彼は英雄と呼ばれるほどにまで成長し、この世界に平和をもたらしたのです。

 また、そんな前世の生き様に女神■■■さまが惚れこみ、彼に相応しいスキルを一つだけ与えたそうです。



 そのスキルは――。











 彼が誕生して数日ほど経ちました。赤ん坊であるため、生活のほとんどをベビーベッドの上で過ごしていますがわかったことがいくつかあります。


「ノン、――――?」


 まず、おそらくですが赤ん坊に付けられた名前が『ノン』であることです。

 魔法の存在を確認できたため、ここが異世界であるとわかり、最初に出会った女性が発していた言葉も異世界のそれだと推測できます。


 そして、この数日の間、唯一顔を合わせている女性が呼びかけるように何度も口にしている単語がありました。それが『ノン』というものです。


 もしかしたら本当の名前はもっと長く、愛称でそう呼んでいる可能性もありますが、少なくとも赤ん坊=『ノン』であることには間違いないでしょう。


(ノン、か……)


 女性からそう呼ばれる度、赤ん坊――ノンは少しだけ感傷に浸ってしまいます。前世で幼馴染の女の子から『のん君』と呼ばれていたことを思い出すからです。


 すでに死んでしまった身である彼はもう幼馴染の女の子に会うことは叶いません。それがわかっているからこそ、ほんの少しだけ悲しくなってしまいます。


「ふえぇ……」

「ッ!? ノン、―――? ――――――!」


 今日はその悲しみが強く出てしまったのでしょう。赤ん坊の体は彼の心を感じ取り、それを外へ伝えるために泣き出してしまいます。名前を呼んだだけで泣いてしまったため、女性は慌てた様子で彼を抱き上げ、あやし始めました。


(うぅ、ごめんなさい……)


 そんな彼女を見てノンは申し訳なく思い、それが涙となって流れていく。これは完全にパターンに入りました。名前を呼ばれる→悲しくなる→泣く→女性が困る→申し訳わけなくなる→泣く→女性が困る、の無限ループ。この数日、女性とのやり取りで何度も起こった現象です。


「――。――――!」


 しかし、女性もさすがに慣れたのでしょう。泣き止まない彼をベビーベッドに戻し、人差し指を立てます。そして、その指先からあの魔法の球が溢れ始めました。


「ッ……」


 ポンポンと生み出される魔法の球に彼は泣き止み、夢中になって眺めます。何度も見た光景ですが魔法という未知の存在にはまだ慣れず、食い入るように見てしまうようです。そんな彼を見て魔法の球を生み出しながら女性は微笑ましそうに口を緩めました。


「―――?」

「きゃっきゃっ!」

「っ……ノン、―――――!!」


 女性に『楽しい?』と小さな声で問いかけられたような気がした彼はコクコクと頷こうとしますが首が座っていないため、上手くできません。そのため、手足をジタバタさせて喜びを表現します。それを見た女性は彼の可愛らしさに胸を撃たれたようで腰をくねらせながら悶絶しました。


 わかったことがもう一つ。この女性こそ、彼を産み落とした母親であることです。


 異世界ということもあり、顔の造形は日本人とかけ離れている彼女ですが、ノンに向ける眼差しは前世の母と同じように愛しさに溢れていました。事故に遭うまで両親に大切に育てられた彼はそれに気づき、本能的に彼女が母なのだと理解したのです。


「ノン? ノーン」

「きゃっきゃっ」


 魔法の球のおかげですっかりご機嫌になった彼の頬を母親は優しく突きます。それすらも楽しいのか、意識せずとも笑ってしまうノンはこの世界でも生きていけそうだと少しだけ安心しました。

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