第38話 滞在
精霊の国は大木の内部にあります。どうやら、この木は最初から内部が今のような構造だったらしく、最初に見つけた精霊が勝手に住み着いたことが始まりのようでした。
あれからこの国に来た経緯を話したノンでしたが、オウサマの予想通り、今すぐ彼を家に帰す方法は思いつきませんでした。ですが、時間はかかってしまうものの家に帰せるかもしれない方法はあるようでそれまでの間、彼は滞在することとなり、急遽、部屋を用意してくれることとなりました。
オウサマが案内したのは彼女の部屋と同じ階層にある一室でした。この大木の最上階には客室がいくつか用意されているらしく、この部屋もその一つです。
そして、なにより大木はこの最上階以外に部屋はないそうで、これより下の空間は精霊たちが自由に飛び回るためのもの。どうやら、精霊はぷかぷかと浮いたまま眠るので部屋は必要ないそうです。
「では、この部屋を使ってくれ」
「はい、ありがとうございます。オウサマさん」
「私のことはオウサマでいい。こっちが迷惑をかけたのだからお礼の言葉も不要だ」
ノンが使用する部屋の前でオウサマはそう言って申し訳なさそうに目を伏せました。あの後、少しだけ話しましたがこれまで精霊が勝手に子供を連れてきた場合、先ほどノンに試した方法で全て解決していたそうです。
言葉を話せるのなら名前や住んでいる場所の特徴を聞き、それでもわからない時やそもそも言葉すら話せない子は【ステータス】を覗く。そうすることで名前を知り、あの地球儀に似た魔道具で場所を特定して送り届けていたそうです。
ですが、ノンは事情が違います。家名があるのか、『ノン』という名前では魔道具が作動せず、【ステータス】は何故か弾かれる。なにより、彼が家からほぼ出たことがなかったため、自分が住んでいる国すら知りませんでした。これでは探しようがないのも無理はありません。
(もうちょっと外に関心を持てばよかったかなぁ)
転生し、新しい家族を手に入れたノンだからこそ、外に出なくても満足していたツケがこんな形で返ってくるとは思いませんでした。
更にオウサマが言うにはこれから試す方法も確実ではないそうです。もし、全ての方法を試して駄目だった場合、彼はどうするのか。オウサマも今は考えない方がいいと言ってその話を終えました。
(もし、帰られなくても僕は……)
「さて、部屋の前で話をするのもあれだな。夕食はこちらで用意するからそれまでこの部屋で――」
そう言いながらオウサマが部屋の扉を開けるとそこにはカラフルな光の球がぎっちぎちに詰め込まれていました。想像を絶する光景にノンもオウサマも茫然としてしまいます。
(そういえば……)
ノンが精霊の国に滞在することが決定したことを知った精霊たちはこれでもかというほど喜び、大木内を縦横無尽に飛び回っていたのを思い出しました。もしかしたら、少しでもノンと一緒にいるために国中の精霊が部屋に入ったのかもしれません。
「お、お前たち! 部屋の準備をしろと言ったではないか!!」
『じゅんびしたー』
『これでおっけー』
「おっけーなわけあるか! さっさと出ろ! こら、奥に行こうとするな!」
「くっ、ふふっ、あはは!」
再び、ぎゃあぎゃあと騒ぐ精霊たちにノンは堪らず、声を出して笑ってしまいました。
まだ不安な気持ちはあります。この先、どうなるかわかりません。
でも、こんなに愉快な国に滞在するのなら家族に会えない寂しさは少しだけ紛れそうでした。
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