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英雄くんはおうちに帰りたい  作者: ホッシー@VTuber
第五章 英雄くんは獣人たちと和解したい
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閑話5 それでも

「ごめんなさい。精霊の国に関する情報はほぼありませんです」

 迷宮都市にある魔法を研究する機関――エノール魔法研究所。そのとある研究室で子供に見えるほど身長の低い女性が申し訳なさそうな表情を浮かべながらはっきりと断言する。

「本当に何もないのか?」

 その女性の言葉を聞いて眉間にしわを寄せた男性――ジェラルドは低い声でもう一度、問いかけた。『精霊隠し』の逸話は有名であるため、精霊の国の存在は誰もが知っていることであり、情報もそれなりにあると思っていたからだ。

「はい、ないです。どれもがおとぎ話の域を超えないです。ジェードたちが知りたいことは何もないのです」

「そんな……」

 女性の答えにエフィーナは顔から血の気が引く。迷宮都市にまで来たのに何の成果も得られない可能性が出てきたからだ。

「そもそも『精霊隠し』に遭った子供が帰って来なかった前例はないです。そのせいで『精霊隠し』の研究をしようとする人が少ないのです。必然的に情報も少ない、と言いますか調べようとしてもどうやって調べればいいかわからないレベルなのです」

 ため息交じりに言葉を漏らしたのはエフィーナとジェラルドの元パーティーメンバー――メララ。彼女も一度、未知の存在である精霊のことを調べようと思ったことはあった。

 だが、精霊は通常、人の目に見えない。そのせいで精霊本人に話を聞いたり、こっそりその後を追いかけて住処を突き止めることも不可能だ。

 唯一、目撃情報のある精霊王も滅多に国から出てこず、種王会議にも参加しないことが多いとの噂もあり、とにかく情報の出所が少ない。

「メララ様、他に方法はございませんか?」

 ジェラルドとエフィーナが言葉を失っている中、狐族の獣人であるルルーカは冷静に質問した。情報を求め、数か月にも及ぶ旅を経て迷宮都市に来たのに成果ゼロは避けたい。せめて次の方針だけでも固めておきたかった。

「そうですね……あの魔道具は試したのですか? ほら、王都にある名前だけでその人物を探せる魔道具です」

「いえ、ですが、あれは魂に刻まれた名前と魔力を結び付けて効果を発揮する魔道具。ノン様は『封魔の指輪』を装備しているため、効果はありません」

 『魔漏症候群』を患っている子供。仲間の子供がそんな状態だと知らなかったメララはエフィーナから聞いた話を思い出して思わず顔をしかめた。『魔漏症候群』は今もなお、研究されている不治の病であり、今のところ、その原因すら判明していない厄介なもの。そんな大病を仲間の子供が患っていると知り、胸が張り裂けそうになった。

「エフィーナ、もう一度、聞きます。あなたの子供は『精霊隠し』に遭ったのですね?」

「うん、それは間違いないよ」

「そうですか」

 エフィーナの真剣な表情を見た後、メララは目を閉じる。こうした方が物事を考えるのに集中できるからだ。

「……結論を先に言います。正直、この国での探索は難しいです」

 この場にいる全員が固唾を飲んで見守る中、考え事を終えた彼女が目を開け、小さな声でそう告げた。

「それは……どうしてだ?」

「まず、私たちにある情報は『精霊隠し』に遭ったことだけです。だから、精霊の国を見つけて精霊王に話を聞くしかありませんです。しかし、精霊の国に関する情報はほぼ皆無」

 そこで言葉を区切り、メララは立ち上がる。そのまま、研究室の壁に貼り付けられた小さな黒板に白いチョークで文字を刻み込み始めた。

「では、次にどうするか? ジェラルドが目を付けたように種王会議で情報を集めるしかないです。それも種王会議に参加できるのは各種族の代表のみで我々に参加資格はありませんです。そもそも魔族との戦争のせいで種王会議はハーニンド大陸以外で開催されるのでこの大陸から出られない時点で詰んでいるのです」

 メララの言うとおり、ハーニンド大陸は魔族のせいで他の大陸との物流がほぼ止まっている状況だ。精霊の国を見つけるための唯一の希望である種王会議。それに参加できない時点でもう手詰まりなのである。

「……」

 ジェラルドもエフィーナは奥歯を噛み締めた。すでにノンの行方がわからなくなって一年と一か月。その間、自分たちは何もできなかった。それがどうしようもないほど悔しいのだ。もう、自分たちにできることはない。そう、言われたような気がしたから。

「だから、次のステップとして別の大陸に行く手段を探すのはいかかです?」

「……は?」

 だからこそ、メララの提案に驚いた。顔を上げるとそこには黒板に他の大陸へ行く方法を片っ端に書き連ねている彼女の背中があった。

「海路は封鎖されていますがどこかの港町で必死に頼めば危険を顧みず、船を出してくれる人がいるかもしれませんです。他にもハーニンド大陸には隠された転移魔法陣があると聞いたことがあるです。行き先はわかりませんが最終手段の一つとして探してみるのもどうです? それこそ獣人のルルーカがいるのでケレスカ大陸とか他の大陸に行くよりもハードルは低そうな――」

「――メララ!」

「え、ひゃっ!? もう、いきなりは吃驚すると何度言ったらわかるのです?」

 色々と案を出している彼女に感激したエフィーナが突撃して小さな体を抱き上げた。後ろから襲われたメララは小さく悲鳴を上げてしまう。そして、仕方ない、と苦笑を浮かべた。

「他の大陸か……それは盲点だった。確かに他の大陸から信書を出せば届く可能性もあるし、精霊の国に関する情報があるかもしれない」

 そんな彼女たちを見ながらジェラルドは腕を組んで頷く。もちろん、彼にも立場があるのでその折り合いを付けなければならないがその点をクリアすれば他の大陸に渡る方法を探す旅ができる。

「一先ず、しばらくこの街に滞在して情報を集めよう。それから戻って王様に許可をもらおう」

「ええ、わかりました」

「私も自分の研究があるのですぐにお手伝いはできませんが年内には落ち着く予定なのでその後ならお手伝いできるです」

 精霊の国に関する情報は得られなかったが次にやるべきことは見つかった。それだけでも十分な成果と言えるだろう。


 ノンが『精霊隠し』に遭って一年以上が経った。一か月前に六歳になったはずの息子にと再会するため、彼女たちは未だもがき続けていた。






「ええええええ!? あなた、ノンくんのご両親のお仲間なんですの!?」

「はい、そうです!」

 ハーニンド大陸北部、ルニア大陸に近い場所にあるエルフの村。そこでレナートは妖精王であるテレーゼと出会い、興奮したまま、自分の仲間が『精霊隠し』に遭った息子を探していることを告げた。

「ああ、何ということでしょう! やっと、やっとノンくんのご両親に繋がる方に出会えました!」

 それを聞いたテレーゼは感動したのか、ポロポロと涙を流して部屋の中を飛び回る。その姿はまさに喜びの舞を踊る蝶々。そんな彼女を見てレナートはニコニコと笑みを浮かべていた。

「やっぱり、会ったことがあるんですね!」

「もちろん、彼が精霊の国にいた時は何度も会いに行ったし、三か月前に開かれた種王会議で再会もできたんですの!」

「まさかそんなに親密な関係だったとは……ん? 精霊の国にいた時は?」

 そのニコニコ顔もテレーゼの言葉を聞いて固まった。今もなお、ノンは精霊の国にいるはずだ。だって、彼は大人に守ってもらわなければ生きていけない子供。だから、精霊王の保護下で寂しい思いをしている。そう考えるのは普通だった。

「ええ、今からだと……一年と九か月前に彼は精霊の国を出ておうちに帰るためにハーニンド大陸を旅してるんですの」

「……は?」

 テレーゼの言葉にレナートは二度、驚いた。一つはノンが『精霊隠し』に遭ってそれほど月日が経っていると思わなかったこと。もう一つは子供であるはずの彼が旅に出たこと。

「ま、待ってくださいね」

 とりあえず、一つずつ処理しよう。そう思い、彼女は震える手で鎧の中から仲間から届いた手紙を取り出し、中身を確認する。しかし、残念ながらそこには日付の類が書かれておらず、テレーゼの発言が本当かどうかわからなかった。

(でも、子供だってはっきり書いてるし……パーティーが解散してから子供を産んだとしたら丁度、五歳か六歳くらい)

「ノンって子は何歳なの?」

「今、六歳ですわ! あと三か月ほどで七歳になるんですの!」

「六歳!? そんな歳で旅するなんて危険すぎます!」

 手紙にはノンは『魔漏症候群』という大病を患っていると書かれていた。そんな子供が旅に耐えられるはずがない。

「あら……ノンくんはその辺にいる冒険者よりも強いですわよ? わたくしも模擬戦だったといえ、一度、負けておりますし」

「……は?」

 妖精族のテレーゼは人間の拳大しかなく、そこまで強いようには見えない。しかし、彼女は曲がりなりにも妖精王だ。おそらく、本気で戦えばパーティーを解散した後も一人で旅をしていたレナートであっても殺されてしまうだろう。そんな相手に子供であるノンが模擬戦で勝った。それはあまりに信じがたい情報だった。

「で、でも……『魔漏症候群』だって……」

「ああ、それはご両親の勘違いですわ。ノンくんが赤ん坊の頃に誤って魔法を使ってしまい、魔力欠乏症になってしまったんですがそれが『魔漏症候群』だと誤診されてしまったの」

「赤ん坊の時に魔法を使った? 誤診?」

「とにかく! ノンくんは旅をしてるんですの! 今はとっても素敵な仲間もできて楽しそうでしたわ!」

 テレーゼから開示される情報にレナートは思考が止まる。そんな彼女にテレーゼは面倒臭くなったのか、大声で強引に話を終えた。

「え、えっと……そう! そんなことよりも私、その子に会ってエフィとジェード……その子の両親がどこに住んでるか教えてあげたくて!」

「まぁ、なんとお優しい方! ぜひ、そうしてあげて欲しいですわ! わたくしが行った方が早いのは確かなのですが、魔族の対策を立てるのに忙しくてなかなか時間が取れないの!」

「魔族の対策? ううん、とりあえず、居場所を教えて!」

 レナートの言葉に感激したテレーゼはその場でクルクルと回転して喜び始める。もちろん、彼女の口から漏れた新しい情報に思考を持って行かれそうになるがレナートはあえて無視してノンの居場所を聞いた。

「ケレスカ大陸で再会した時はハーニンド大陸に戻って迷宮都市に向かうと言っていましたわ」

「……そう」

 魔族との戦争によって他の大陸に行けない状況なのにノンはケレスカ大陸にいた。怒涛に襲い来る予想外の情報にレナートは考えることを止めて『迷宮都市』という言葉だけ飲み込むことにした。

「あ、できればノンくんのご両親が住んでる場所も教えてくださらない? あら、レナート? 聞いてますの?」

 混乱する頭にテレーゼの騒がしい声が遠くに聞こえる。結局、テレーゼに軽く頭を叩かれるまでレナートは正気に戻ることはなかった。

これにて第五章、完結です!

本日は閑話のみの更新となり、明日から第六章を開始します!

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