第37話 感謝
「それじゃ、【ステータス】も……」
「ああ、お前は一切の魔法が使えない……【ステータス】も例外ではない」
「……そっかぁ」
少しだけ魔法が使える希望が見えたからか、ノンはオウサマの言葉に肩を落とします。ですが、すぐに顔を上げました。
「じゃあ、話を戻しましょう。【ステータス】が使えないとなると僕は家に帰られるんでしょうか」
「……いいのか? 魔法を使いたがっているように見えるが」
「……そうですね。魔法を使ってみたかったです」
確かにショックを受けなかったと言えば嘘になるでしょう。入院中、彼は数少ない活動時間を物語の中へ潜ることに使ってきました。小説や漫画、アニメの世界へ入り込んでいる間、病気のことを忘れたからです。
だからこそ、彼にとって魔法は憧れ。僕にそんな力があったら、と何度も想像し、そんなわけないか、と何度も諦めた夢そのものです。
それが自分自身の行動で壊れてしまった。ショックを受けないわけがありません。
「でも、僕はそれ以上にこうやって生きてることが嬉しいんです」
「生きていることが?」
「はい、だって、魔法が使えなくても……僕は幸せでしたから!」
この世界に生まれ落ちて明日で五年。魔法が使えないとわかってからも彼が幸せだった事実は変わりません。
自分を愛してくれる母がいる。自分を守ってくれる父親がいる。お世話をしてくれるメイドがいる。
これがどれだけ恵まれていることか、家族を失ったことのあるノンは知っています。
だからこそ、彼は転生した日から感謝の気持ちを忘れたことはありません。
産んでくれた母親に。笑いかけてくれた父親に。お世話してくれた獣人に。
そして、転生させてくれた神様に。
魔法は使えなくたって、病気を患っていたって、家族と離れ離れになってしまったとしても、生きていれば――幸せなことが待っている。
彼はそう信じています。
だって、死んだ後ですら、幸せを感じることができたのですから。
「だから、僕は帰ります。どれだけ時間がかかっても、家族のところへ」
「……そうか。そこまで察しているのなら隠す必要はないな」
ノンの目に宿る覚悟の色を見たオウサマは立ち上がり、ノンの頭に手を乗せました。よく頭を撫でてくれたエフィと同じような手つきに少しだけ心がジンとしてしまいます。
「すまない、これからこの国に来た時の経緯を聞いて色々考えてみるが……おそらく今すぐお前を家に帰す方法はない。だが、時間はかかるが他に試せそうなことはある。少しの間だけ、この国にいてくれないか?」
「……はい。お世話になります」
こうして、ノンは精霊の国への滞在が決まったのでした。
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