第36話 墓穴
「魔力を、吸い続ける?」
オウサマの言葉をノンは無意識に繰り返しました。彼の感覚は間違っていなかったのです。魔力は漏れ出ていたわけではなく、ずっと指輪が吸い続けていたのでした。
「でも、母はこれを魔力が使えなくなる指輪だって……」
「む、お前の母は冒険者か? おそらく、実際に付けてみてどんな魔道具か判断したのだろう。鑑定代は馬鹿にならないそうだからな」
確かにエフィはそんなことを言っていたような気がします。そのせいでこの指輪の本当の効果を勘違いしてしまい、ノンへ装備してしまった。そうとしか考えられません。
「きっと、魔力が吸われたせいで上手く魔法が使えなかったから勘違いしたのだろう。それに加え、『吸魔の指輪』は一度に魔力を吸う量はそこまでではないからな。優れた魔法使いほど魔力が吸われていると気づきにくいはずだ」
「でも、赤ちゃんには……」
「ああ、致命的だ。『魔漏症候群』と似た症状になる」
ノンは前世で事故による怪我の影響で様々な病気を患ってしまいました。そう、彼の生活には必ず病気が付きまとっていたのです。それにより、多少の違和感があっても『病気を患っているのは当たり前』という先入観が思考を鈍らせました。
「あ、それじゃあ、僕って魔法が使える?」
ノンが魔法を使えない原因は『魔漏症候群』による魔力の乱れです。今は『吸魔の指輪』が邪魔をしていますが、指輪の呪いさえ解けば指輪を外すことができるでしょう。そうすれば、彼も念願の魔法を――。
「――いや、おそらくそれは叶わない」
――そんな考えをオウサマが遮りました。彼女はどこか辛そうな表情を浮かべながらノンの肩に手を置きます。
「先ほども言ったがお前からは魔力が一切、感じない。『吸魔の指輪』に魔力を吸われ続け、魔力が極端に少なくなってしまったのだろう」
「え? それはないです。今だって魔力を回してますから」
オウサマの言葉をノンははっきりと否定しました。先ほど、地球儀のような魔道具や【ステータス】を使用した時、魔力の流れを感じ取りましたが、それと比べるとノンの中に宿る魔力は極端に少なくなったとは思えません。むしろ、今の彼なら【ステータス】程度の魔法なら何百回と使えるほどです。
「魔力を、回す?」
「はい、魔力操作の修行の一環で体内をぐるぐると回してます。魔力量もそれなりにあるっぽいです」
「それは、魔力循環? どうして、そんな高等技術を……いや、それはマズイぞ!」
オウサマは血相を変えて立ち上がり、彼の体をぺたぺたと触り始めました。その手つきは医者の触診に似ており、少しだけくすぐったい気持ちになります。
「確かに体内で魔力の流れを感じる。指輪に邪魔されているというのに……だが、あまりに完璧すぎる。やはり、魔力を体外へ放出させる器官が塞がっている!」
「え?」
「魔法を使うためには体外へ魔力を放出し、術式を組み上げる。だが、お前の場合、魔力循環を繰り返したからか、体が魔力を放出する器官を塞ぐことで効率化したようだ。その指輪を外したとしても魔法は使えまい」
「そ、んな……」
その言葉にノンは茫然としてしまいます。良かれと思って鍛えていた魔力操作が魔法を使う夢を潰す一因となった。そう、彼は自らその夢を壊してしまったのです。
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