第350話 壇上
次の日、ナーティの街に住む人々は下町の広場へ呼び出され、何事かと話し合っています。そこには上町に住む人たちもおり、これはただ事ではないと薄々気づいているようでした。
「あ、領主様だ」
「久しぶりに見たが……随分、やつれてるな」
「何かあったんだろうか?」
そんな広場に堂々と歩いてきたブレッドの姿に住民たちは少しだけ驚いた様子で声を上げます。彼は闇ギルドの悪事に加担している間、屋敷からほとんど出歩かず、姿を見たのが久しぶりだったからでしょう。
「……」
ブレッドはそんな彼らをチラリと見た後、壇上へと上がって正面――ナーティの住民たちの方へと体を向けました。
「……まずは急な呼び出しに集まってくれたことにお礼を言いたい。ありがとう」
「ッ――」
僅かに震える声でそう切り出したブレッド。たった一言なのに住民たちは一瞬で彼の雰囲気に飲み込まれました。
まともに彼が顔を出したのはリフトが完成した時に開かれた簡素なイベントの時です。あの頃は領主になったばかりで少し頼りなさそうに見えましたが、今のブレッドからはそれ相応の覚悟を感じ取れたのです。
「きっと、これから話すことは君たちにとってあまりに唐突で……全く関係のない話だ。全て、私が悪い。全て……未熟な私が引き起こした事件なんだ」
それからブレッドはこの数年間、ナーティの街で起きていた悪事を話し始めます。さすがに闇ギルドや魔族のことは伏せましたがそれ以外のことは全て打ち明けました。
「……」
話を聞き終えた住民たちは言葉を失い、お互いに顔を見合わせてしまいます。当たり前でしょう。魔族との戦争が始まり、海路が使えなくなって沈んでいたこの街はリフトや祭りのおかげで少しずつ持ち直していました。
しかし、その全てが犯罪者たちの悪事の一部。そして、それに気づくことなく、自分たちは普通に生活していた。そんなことをいきなり言われてもすぐに信じられないでしょう。
「……」
そんな住民たちの様子を見てブレッドは目を伏せ、小さく手を上げました。すると、物陰から五つの人影が姿を現します。ブレッドに向かって歩く魔法使いの女性と小さな男の子。その後ろを歩く外套で姿を隠す大人と子供二人。そう、念のために傍で待機していたノンたちです。
「あ、あの子たち……」
ノンたちを見て最初に気づいたのは宿屋の店主でした。屋内でも頑なに姿を隠していた上、久しぶりの冒険者だったこともあり、一週間以上経っても記憶に残っていたのでしょう。
「彼らは今回の事件を解決してくれた冒険者たちだ……いいかい?」
「ああ」
ブレッドの短い紹介と共に最初に外套を脱いだのはグレイクでした。獣人の象徴である獣耳――猫族特有の尖った耳を見て住民たちは目を見開きます。海路が使えなくなってからハーニンド大陸を訪れる獣人はほとんどいなくなり、久しぶりに獣人を見たからでしょう。
ましてや、海路が使えなくなる前からもケレスカ大陸に行く人間はいましたが向こうからこちらに来る獣人はあまりいませんでした。そのため、ナーティの住民たちもあまり獣人を見慣れているわけではなかったのです。
「――ッ!?」
しかし、ほぼ同時に外套を脱いだアゼラとミアを見て今度こそ言葉を失いました。彼らが明らかに親元を離れてはならないほど小さな獣人の子供たちだったからです。
「猫族の彼は冒険者であり、自らこの大陸にやってきた。しかし、この子たちは一年前に先ほど話した悪事に巻き込まれ、無理やり連れて来られた被害者だ。奴隷として売られ、命からがら逃げ出したところで彼らと出会い、故郷へ帰るためにこの街に来たそうだ」
ブレッドの説明に住民たちは驚く声すら出せずにアゼラとミアを見つめます。それが居心地悪いのか、アゼラは不機嫌そうに目を逸らし、ミアは恥ずかしそうに俯きました。その仕草はまさに子供そのもの。
「そんなっ……まさか……」
それを見た彼らはやっと、ブレッドが話した事件が本当のことだと認め始めたのです。
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